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クーラーの程よく効いた室内で、ソファにごろりと寝転がって目を閉じる。平日の昼間なんて特に面白い番組もなく、ただうるさいだけのテレビは先ほど電源を落とした。くあ、と欠伸をしながら薄目を開けて赤司の存在を捜すと、窓際の日当たりの良いラグの上にうつぶせに寝そべって、らしくもなくだらけた格好で本を読んでいた。

火神と赤司は同じ空間にいても、多くの言葉を交わすわけではない。もともと口下手、というか、決して話好きなほうではない火神と、静かで穏やかな空間を好む赤司とでは、不思議ととても波長が合った。会話がなくても、それぞれが好き勝手に別々の行動をしていても、その空間に互いが存在しているというだけで満足できてしまう。とても居心地の良い空気感がそこにはあった。

とろりとろりと、緩やかに睡魔が忍び寄ってくる。午後の予定は何もなし、夕飯の支度をする時間までに起きればいいかと火神は抗うことなく眠りに落ちていく。目覚ましは必要ない。見た目に反して食い意地の張った恋人さまが、その正確な腹時計の元、起こしに来るに違いないから。



* * *


どれくらい眠ったのだろうか、唇に何か違和感を感じて、火神の意識はゆるりと覚醒した。とん、とん、っとノックをするような控えめなリズムで唇に何かが当たる。はじめはキスでもしてくれているのかと思ったが、触れてくる「何か」に唇の柔らかさはなかった。

「…何してんだ」
「ああ、やっと起きたか」

まだ少し重たい瞼をぐぐっと開けて、いきなり目の前に飛び込んできたのは、赤司の手だった。いや正確には指でキツネの形を作った手、か。小さい頃に子どもがよくやる手遊びの一種だと思う。指キツネ。親指と中指、薬指をくっつけて、人差し指と小指を立てると出来上がる、アレだ。その指キツネを見せびらかすように火神の目の前にかざした赤司は、キツネの口(と思われる部分)をちょん、っと火神の唇に押し当てた。そうして、キス、と呟いて笑う。どうやら先ほどから唇に感じていた違和感はこれだったらしい。悪戯が成功した子どものように笑う赤司は棘のない柔らかな空気を纏っていて、先ほどからの一連の行動も含めて大変あどけなく可愛らしい。

「キスはこうだろ?」

お返し、とばかりに火神も同じようなキツネを作って、自分よりも幾分白い指先をがぶり、と食べるように包んでやった。そしてそれに目を丸くした赤司の一瞬の隙をついて、空いている方の手で彼の後頭部を押さえ込み、唇を奪ってやる。食むように甘噛んで、小さな口に自分の舌を捻じ込んで、征服するように絡み付いて離さない。しばらくして赤司の喉が苦しそうにひくりと震えたのを感じ、そこで潔く解放してやった火神は、先ほどとは打って変わって不機嫌になった赤司にぎろりと睨まれることになった。

「…お前のそれはキスじゃなくて捕食だ」

むうっと不愉快そうに眉を寄せた赤司は、キスをしていたせいで上気した頬を片手で押さえながら、依然火神の指に「食べられた」ままの自分の指先を見つめる。

「そりゃ、キツネは雑食だからな」
「…何が言いたいのかわからないんだが」

つまり、何でも食べるってこと。キスも、愛も、唇も。
ただしキツネは肉食性が強い生き物だから、一番に狙われるのは唇って話ですよ、征十郎さん。


2012/09/16






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