ボーイ・ミーツ・ガール

新学期。
クラス発表で自分のクラスを確認し、教室に入る。
かなり早くに教室に来たものだから、クラスに生徒はほとんど居なかった。
とりあえず自分の出席番号を確認し、席につく。

「………」


時計を確認すると、始業までにはかなり時間がある。
それまで暇だなぁ、と思いつつ、チラリと隣を盗み見る。

切り揃えられたサラリとした髪に、閉じられた目…と言っても、本を読んでいるらしいので開かれてはいるのか。
隣の席に座る生徒は、物静かそうで、見るからに頭の良さそうな美人さんである。

私の席の周りで教室に居るのは、今のところこの生徒だけだ。
しかし、どこかで見たことがある気がするのだが、気のせいだろうか。


「何か用か?」


横目で様子を伺っているつもりが、普通にガン見してしまっていることに気がついた。
読んでいた本から少し視線を反らして、隣の席の美人さんはこちらを向いた。
関係ないが、この人は今ちゃんと目開いてるんだろうか。


「いや…私達、どこかで会ったことあります?」


そう言えば、美人さんは整った顔を少ししかめた。
何か機嫌を損ねるような質問だっただろうか、と不安になった時に、まるでナンパしているみたいだと気付いた。
私達どこかで会ったことない?なんてベタ過ぎである。


「正確に言えば、会ったことはあると言える。この2年間、同じ学校に通っていたのだから、すれ違ったことくらいはあるだろう。ただ、意識して確認したのは今日が初めてのはずだ」


質問の答えが、予想の斜め上であったことに少し驚いた。
もっと簡単に、今日が初めてだと思う、と言われると思ったのだが。
なんだか変わった人だな、と思いつつ、頷いておく。

名前は、なんと言うのだろう。
今日朝配られたクラス発表の紙を取りだし、隣の席の美人さんの席を前から順番に数える。
番号を確認してから、クラス発表に目を移したところで、隣から声をかけられた。


「柳蓮二だ」

「…は、」

「俺の名前を調べていたのだろう?」


今度は本から視線を反らさずに、そう言われた。
何故分かったのだろう、と考えていると、パタリと読んでいたでいたはずの本が閉じられた。


「先程の質問から推測して、君は俺に何かしらの関わりを感じたのだと分かる。
それを俺に聞いた上で、クラス表を取りだし、俺の出席番号を確認したあたりで、俺の名前を調べていたのだと簡単に予想がつく」

「はあ…」


コナンかこいつは。
私に名前を教えてくれた理由をこれまた丁寧に教えてくれた、柳君にぎこちなく頷いた。
物静かそうに見えるが、実は喋るの好きなんじゃないだろうか。

そこでふと、柳という名前に心当たりがあることに気付いた。
どこかで、しかも何回も聞いたことがある。
記憶をぐるぐると遡り、暫く唸っていると、柳君は不審そうにこちらを見てきた。


「…ああ!テニス部の柳君?」

「そうだが」


そこでやっと、私の中にある蟠りが無くなった。
そうだ、学校での集会の時によく表彰されていた。
立海大付属中等部のテニス部は全国トップレベルで、大会優勝がもう普通である。
表彰され過ぎていてこちらが飽きるくらいだ。
テニス部と言えば、幸村君と真田君が目立っていたし、その二人くらいしか把握していなかったのだが、確かに柳君のような人も表彰されていたような気がする。


「ごめん、私が一方的に柳君のこと知ってるだけだった。
よく表彰されてるよね?」

「構わない。
確かに、テニス部では勝利が当然だからな。そうなるのは必然…と言うと、少し偉そうか」

「え?」

「勝利は当然、というのは嘘では無いが、皆それに見合う努力をしている。勝利は、その賜物だ」


そこで初めて、表情があまり変わらなかった柳君が、微かに微笑んだ。
それだけで、なんとなく彼のテニスに対する思いが伝わってくる。大好きなのだろう、テニスも、それを共にする仲間も。


「しかし、意外だな」

「何が?」

「苗字ナマエ、お前がテニス部のことを把握していないことがだ」

「いや、把握してるよ。現に柳君のことを知って……って、何で私の名前知ってるの」

「同じクラスになる生徒の名前はすでに覚えている」


同じクラスになる生徒の名前って、まずついさっきクラス発表されたばかりなのだが。
記憶力良すぎだろう、と若干こちらが引いていると、柳君は少し笑いながら言った。


「ちなみに、クラス全員の所属している部活も把握している。苗字は、バレー部だろう」


何で知っているんだ、と青ざめた私を見て、柳君は口元を押さえてクスリと笑った。
こいつもしかしてストーカーじゃないのだろうか、という疑惑が浮上し、私はとても笑えなかった。



(後で、私のカバンについたバレーボールのストラップを指差され、納得した)


20120224