ガールズトークwith立海

※立海で露天風呂





「ふぃ〜、極楽極楽」

「親父臭いぜよ、赤也」

「っはあ!?」


親父臭いと言われてムッとしたのか、赤也が仁王に思い切りお湯をかける。
それに対して仁王も仁王でやり返し、二人のお湯の掛け合いが白熱したところで、精市が咳払いをした。
そこでやっと掛け合いを止めた二人は、温泉に浸かっているにも関わらず顔色を悪くした。
咳払いをした幸村が、両手に風呂桶を持っていたのである。
その桶にあるのは恐らく熱いお湯では無く、冷たい冷水だ。

容赦無く二人に冷水をぶちまける精市は笑顔だが、目が笑っていない。


「っあああああああ寒いいいい!!」

「うお冷てええうわあああ」

「ちょ、仁王触んな冷てぇ!」

「おい幸村、水がこちらにも散「温泉くらいゆっくり浸からせろ」


わざと言葉に被せ、言い淀んだ弦一郎を黙らせるあたり流石精市だ。
弦一郎の扱い(操りかた)は手慣れたものだ。
赤也と仁王は先程掛けられた冷水による寒さを緩和すべく、頭から下を全て湯に浸けている。
海坊主みてぇ、とケラケラ笑う丸井を睨みはするが、何も仕掛けない辺りは幸村に怯えている証拠だ。
また冷水をかけられたくないのだろう。

微笑ましげにそれらを傍観していると、ふとジャッカルが不安そうに口を開いた。


「…なぁ、なんか変な声しねぇ?」

「…変な声?」


耳を澄ませると、一瞬にしてお湯意外の音が聞こえなくなる。
俺達全員が耳をすませることに集中したこともあり、温泉に浸かっていた全員の会話も動きも無くなる。
ちゃぷちゃぷと水面が揺れる音と、外の林から聞こえてくる葉音しかしない、はずだった。



「あっ…ぁ、や…も、ダメ」




沈黙である。
耳をすませるために静かになった俺達だが、聞こえたものに今度は完全に黙った。
弦一郎と柳生はいまいちピンときていないようだが、ニヤニヤし始めた仁王や赤也辺りはこの声の正体に気付いているだろう。
丸井も似たような反応を示すと思っていたのだが、少し赤くなって固まっている。
意外な反応だ、データに加えておこう。



「…あ、はぁ…んっ、やあ」



尚も続く声が喘ぎ声であると流石に気がついたのか、弦一郎は真っ赤になって体を震わせている。
これは怒鳴るぞ、という予感がしたと同時に精市が笑顔で弦一郎の口をふさいだ。
弦一郎を宥めていたが、どうにも言うことを聞かなかったので、弦一郎を強制的に黙らせている様子を見て、肩を落とした。
弦一郎が怒鳴りさえすれば、この声は止むはずなのだ。
それを止めた精市の笑顔がこちらに向く。
ああ、今度のターゲットは俺か。



「うわー…苗字ちゃん喘ぎ声上手いね」

「でしょ〜。ちなみにこれ、青春ラバーズって映画のラブシーンのマネ」

「他に何か声マネとか出来るの?」

「あと何個か出来るけど、全部ラブシーンだよ」

「…何、欲求不満なの」

「いや、ドアに隠れて喘ぎ声出すと真田の反応が面白いんだよね。その研究」

「そりゃあビックリするわ、真田君」

「というか悪趣味」


竹製の壁を挟んで隣から聞こえるマネージャー達の会話から、真田君、という単語を拾って温泉に浸かっていた全員が一斉に弦一郎に視線をやった。
先程精市に抑えられていたはずの弦一郎は、再びわなわなと震えはじめた。
ボソリと、アイツだったのか……と呟いたのが聞こえたので、心当たりはあるらしい。

その事実にもだが、現在話している内容にも頭を抱えざるを得ない。何をやっているんだ、アイツは。
そして隣に俺達がいるということをもっと意識しろ。


「あ、ラブシーンで思い出した。私この前、忘れ物したから教室に取りに戻ったら、仁王君が女子といちゃついててさ〜。なんか入るに入れなくて、結局忘れ物取ってこれなかったんだよね」

「ああ…仁王君ならありそう」

「仁王先輩なら仕方無いって感じはしますけどね」

「酷いナリ」

「うわっ、苗字ちゃん今の似てた!もう一回!」


隣で盛り上がる女子マネージャー達の会話を聞いて、仁王がポツリと「酷いナリ」と呟いた。
「うわ、今のめちゃくちゃ似てる!」とからかった丸井を睨みつけお湯をかけようと立ち上がった仁王をジャッカルがまあまあ、と抑える。
真田の隣にいた精市が桶をひとつ取り、冷水を注ぎはじめたあたりで仁王は大人しくなった。


「仁王っていつか誰かに刺されそうだよね」
「私という彼女がありながら、キエエエエー!」
「うわ、それも真田君に似てる」
「あれだけ彼女とっかえひっかえしてたら、ねぇ…」
「顔がいいからって調子に乗ってんでしょ」
「でも事実、顔がいいからすぐに彼女出来るんだよねー」
「まあ……」
「というか、テニス部全体的にイケメンばっかりじゃん」
「それもそうだ」
「誰が一番人気あるんですかね」
「幸村、仁王、丸井あたりじゃないの」
「丸井先輩は、あんまり彼女とかの噂聞きませんね」
「意外よね…誰か好きな子とかいるのかな」



それを聞いて、今度は仁王が口元を歪め、ニヤニヤ笑いながら丸井を見る。
丸井は心底嫌そうな顔をして、静かにジャッカルの後ろに回った。隠れているつもりらしい。

彼女達の言う通り、丸井には想いを寄せる女子がいるのだ。
ちなみにそれは、先程丸井に好きな人がいるのだろうか、と発言した彼女である。
恐らく丸井もいたたまれない気持ちなのだが、何故かマネージャー達の会話を聞く、という流れになってしまったこの状況で騒ぎはしなかった。



「…告白すればいいのに」
「えっ!?」
「なんかさー…丸井って、青葉の事好きな気がするんだよね」
「まさかぁ……」
「あ、それ私も思います。丸井先輩って青葉先輩には優しいですよね」
「ちょっとやめてよ…恥ずかしい」
「でも、事実青葉には丸井君優しいと思うんだよね。そこらへんはどうなの?」
「そ……そうなのかな」
「そうでしょ」
「で、でも私の思い込みかもしれないし…」
「…………」
「親切にしてくれるなぁ…とは思うんだけど、そんな事で自惚れるのも…」
「…なんか青葉可愛いね、その反応」
「うん、丸井にやりたくないくらい可愛い。私と付き合わない?」
「苗字ちゃんには柳君がいるじゃない……」
「そうだった」


そうだった、では無いだろう。
俺の彼女の間抜けな発言にため息をつくのと反対に、丸井は口元を抑えて真っ赤になっていた。
逆上せかけているのもあるだろうが、大半は彼女達の会話が原因だろう。
今の会話から、青葉が丸井に好意を抱いている、というのは明白だ。
思わぬ形で両思いである、という事実を知ることになった丸井は、嬉しさと恥ずかしさでどんな表情をつくればいいのか混乱しているようだ。
手で隠してはいるが、口元が緩んでいるのが伺える。
ジャッカルと柳生が生暖かい目で丸井を見ながら、おめでとう、と音が出ないように拍手をしていた。





20120323 執筆