彼女から告白をしたらしいが、真田もうっすらと彼女のことが好きだと自覚はしていたらしい。
それにOKを出して、彼女と付き合いはじめた真田の雰囲気は相変わらずだが、彼女の前だと妙に緩んでいる気がする。
それを見てニヤニヤしている仁王や丸井、そして俺もか。
恋愛なんて中学生には早いわ!などと言っていた奴のはじめての彼女、はじめての交際。
何もかもが未知の世界で、真田はやけに戸惑っていた。
そんな真田に、適当なタイミングでアドバイスをするのが、俺と蓮二の仕事だ。
「真田、最近彼女とはどうなんだい?」
手を繋いだか?と聞いてみたら、真っ赤な顔をして「あるわけ無いだろう!」と喚いた真田を逆にこちらが怒鳴った日から1週間が経っていた。
お前が手を繋ぐのは早いと思うのは勝手だけど、彼女はそうは思わないかもしれないよ?それが当然って思ってないかもしれないよ。真田がそういう素振りをしないから自分に魅力が無いのかと不安になって落ち込んでいるかもしれないよ。ねえ、いいの真田、ねえ。
そう言ってやれば、面白いくらいに真っ赤になって固まった真田を見るのはこの上なく面白い。
ただのお節介だとは分かってはいるが、真田はこちらの方面には疎すぎるのだ。
疎くても、己の欲望に忠実に動くような奴なら問題は無いのに、真田は己を律することに長けた人間だ。もともと、それをモットーにしているふしがあるので尚更。
だからこそ、そんな凝り固まった真田の思考を揺ゆさぶってやる役は必要だろう?
「幸村、手を繋げたぞ」
妙に自信あり気に報告してきた真田に、ちょうどノートをまとめていた柳が吹き出した。
勿論俺も吹き出したかったのだが、あまりにも真剣な真田の表情になんとか笑いを押さえ込む。
ここで俺が笑ったら、真田のピュアなハート(笑)を打ち砕きかねないからね。
「そう、それは良かった。で、彼女はどうだった?」
「どう…とは?」
「嬉しそうにしてなかったかい?」
「…む」
俯きがちに腕を組み、ボソボソと「そうだったかもしれん」と照れを隠すように呟いた真田に俺も我慢の限界がきた。
ガン!と机に頭を打ち付けたら、真田は驚いて声を漏らした。
「ど、どうした幸村!?」
我慢、我慢だ精市、ここで笑ったら真田のガラスのハート(笑)を打ち砕きかねない堪えるんだ!と自分に言い聞かせて顔をあげる。
蓮二は未だに口元を覆って震えているので、まだ笑いのツボから抜け出せていないらしい。
それにしても、こんな乙女ちっくな(笑)真田を拝む日がやってくるとは思わなかった。
というか、あの真田に彼女が出来た時点で既に驚きなのだ。
そりゃあ、真田だっていつかは結婚するんだろうな、とは思っていたけど、きっと初めての彼女は成人くらいしないと出来ないと思っていた。
別に真田がモテないとかそういうのではなく、真田自身が「中学生に恋愛は早い〜うんぬんかんぬん」という持論を展開するような奴だったからだ。
それがまさか、持論なんて忘れたかのように彼女をつくったものだから、驚きは未だに隠せない。
「なんでもないよ。真田にしては、良く頑張ったんじゃない?」
「そ、そうか…!」
少し表情が明るくなるところが、子供っぽいなぁと思わせる。
まあ見た目は子供どころか成人を迎えていそうなんだけれど。
さて、笑いも落ち着いてきたところで、真田に新しい石でも投げつけてやろう。
「じゃあ、次はキスだね」
「キ、!?」
案の定真っ赤になった真田に、今度こと我慢が出来ずに吹き出してしまった。
20120529 執筆