同情カウンセリング

手紙がカバンに入っていることに気付いたのは、部室で着替えている途中だったらしい。
捨てたはずのラブレターが何故ここに、と考えてすぐに私のことが思い浮かんだらしい。
面倒なことをしてくれた、と思いつつ、ここまで受けとってしまったからもうしょうがないか、とラブレターを開けたら呼び出しの旨が書いてあった。
放課後、とは今まさにその時間帯でこれから部活が始まるというので更々呼び出しに応じるつもりは無い。
どうでもいいか、と手紙をカバンに戻してからラケットを握り、普通に部活に参加した。
しかし、部活中に呼び出しをされている、という事実が頭を過って落ち着かない。
ラブレターをあのまま読むことなく捨てていれば、こんなに気になることは無かったものを。
一度知ってしまうと、それを疎かにしている自分がなんとなく許せなくて、部活終わりに急いで屋上へ走った。
流石に帰ってしまっただろうか、それならそれでいい。
とりあえず、あの手紙に書いてあった呼び出しに自分が赴くだけだ。
とにかく自分の中にあるもやもやとした蟠りが解消されればそれでいい。
そんなことを思いながら、屋上の扉を開けば、そこにはフェンスに凭れかかる男子生徒が一人いるだけだった。
どうやら差出人は帰ってしまったらしい。

面倒な応対をしなくて良くなったことに安堵し、とりあえず放課後にここに来いという約束を俺は守ったぞ、と自分を納得させ帰ろうとしたら、何故か男子生徒に呼び止められた。
……と。






「それで?」
「………思い出したくない」


日吉君は頭を抱えたまま唸っていた。
一体どんな内容の告白を、その男子生徒とやらにされたのだろう。
知りたいような知りたくないような、なんとも言えないうずうずとした気持ちになる。
ただ、あの日吉君をここまで悩ませるあたり相当強烈な告白だったんだろう。
なんだろう、日吉君のことを考えるだけでご飯3杯はいけます、とかだろうか。



「とにかく、お前のせいだからな」

「はは、ごめん」

「おい何で半笑いなんだ」


こっちはそれどころじゃないんだよ、と舌打ちをした日吉君には悪いが、まさかあの手紙の差出人が男子生徒だったなんて。
可愛い文字にピンクの封筒からかすかに香る花の匂い。
私より遥かに女らしさを感じるそれに、感心する他ない。


「下手にそのへんの女子と付き合うよりは、いいかもしれないよ」

「俺にそんな趣味は無い」



顔色が悪いまま、日吉君は次の授業の準備をしはじめた。
並べられた社会の教科書を見て、私も授業の準備をする。
確か社会の資料集は机の中に入れっぱなしだったはず、と目的のものを引き出すと、見慣れない封筒がそれに乗っていた。
もう一度資料集を机にしまい、引き出すが封筒はやはりそこにあった。
恐る恐るそれを手に取り、ひっくり返すとそこには見覚えのある可愛らしい文字で『日吉君へ』と書いてあった。
何このデジャブ。


「………日吉君」

「…ん?」


私がゆっくり振り向くと、日吉君は幾分かよくなった表情でこちらを向いた。
なんとなく眠そうに見えるが、とりあえず私の机に入っていた封筒を差し出すと、目がみるみるうちに開いていった。
口を少し開け、ポカンとしていたかと思えば、再び凄まじい勢いで机に伏せた。
その勢いのよさに隣の席の青葉がビクリと驚いているのが視界の端に入った。



「俺は何も知らない」

「日吉君、現実を受け止めよう」

「…お前のせいだ」



顔色が悪過ぎて、日吉君はこのまま死ぬんじゃないだろうか、と少し不安になった。



20120408