「お前分かりやすいから、なんとなく好かれてるんだろうなとは思ってた」
日吉君の部活が終わるのを待ち、一緒に帰宅する。
その途中に気になっていたことを尋ねたら、こう返ってきた。
ちなみに、気になることとは「何故あのラブレターの差出人が私であると気付いたのか」だ。
そんなに私は分かりやすい人間だったか、と首をひねりつつ周りの人間にもそう見られていたのかもしれないと思うとゾッとした。恥ずかし過ぎるだろう、私。
「お前の筆跡とよく似ていたし、あの手紙を渡してきた時挙動不審だったからな。なんとなく、あの3通の中にお前からの手紙があるんじゃないかとは思ってた」
よくご存知で。
ははは、と苦笑いをしながらカバンを肩にかけ直す。
何だかんだ言って、日吉君にはいろいろと駄々漏れだったようだ。
それでこんなに余裕なんだな、とある意味納得がいった。
「……ハァ」
不意に日吉君が立ち止まり、ため息をついた。
私が何かしてしまっただろうかと不安になったところで、日吉君が呟いた。
「そこのカーブミラー見てみろ」
「え?」
言われた通り、数メートル先に見えているカーブミラーを見ると、私達の後方に見覚えのある人達を見つけた。
話したことは無いが、学園内では有名な人達だから、ある程度は私も知っている。
「…あれって、テニス部の先輩達だよね?」
左手で顔を覆い、頭が痛そうな日吉君にそう言えば、力なく肯定された。
後ろにいる先輩達はコソコソと何かを話しながら、塀に隠れてこちらを見ている。
「ずっと後をつけてきてたんだろうな」
「えっ…何で?」
「……お前がいるからだろ」
チラリ、と日吉君がこちらを見たので目が合う。
一瞬、目があったことにより体温が上昇する。
日吉君は少し驚いたような顔をしたが、その後視線をそらして「お前は本当に分かりやすいな」と呆れたように呟いた。
「撒くか」
「出来るの?」
「俺一人ならな」
「……それって私もいるから無理じゃん」
「そうだな…。まあ、フェイントをかけるくらいは出来るか」
不意に日吉君に左手を捕まれ、曲がる予定では無い角に逃げ込む。
曲がったらすぐに壁際に寄り、後ろを振り向いて立ち止まる。
バタバタという足音がだんだんと大きくなっていくことから、後ろにいた先輩達はやはり私達をつけていたらしい。
角からまず飛び出てきたのは…名前は分からないが、おかっぱの先輩だ。
その先輩は日吉君と目があうが否や、「うわ!」と声を上げて引っ込んだ。
しかし、後ろから走ってきた先輩達にぶつかったようで、雪崩れ込むように道路に倒れこんできた。
「…アンタらは一体何をしているんですか」
「よ、よぉ日吉…奇遇だな」
「苦し紛れにも程がありますよ」
「いやな、これには深〜い理由が…」
「日吉〜その子彼女〜?」
「こらジロー黙っとき」
「A〜、だって気になるC〜」
キラキラとした目で私を見る芥川先輩のことは、よく中庭で寝ているのを見るので知っている。
しかし、その芥川先輩の質問に緊張せざるをえなかった。
そういえば、私達は付き合うことになったのだろうか。
頭に過った疑問は、隣に立つ日吉君にさらりと持っていかれた。
「だったらどうなんですか。というか後輩の後をつけるなんてどうかと思いますよ先輩」
「べ、別につけてねぇし!」
「向日さんの家はこっちの方角じゃないですよね」
ぐ、と言い淀んだおかっぱの…向日先輩の肩に手を置いて、眼鏡の先輩が一歩前に出た。
どうやら歩が悪いと判断したらしい。
「悪かったわ日吉…。なんや気になったからつい」
「…今後、こういうことは止めてくださいよ」
ジロリ、と先輩を睨む日吉君はに謝る先輩達を見ると、どちらが先輩でどちらが後輩なのか分からなくなってくる。
というか日吉君も先輩相手によくここまで言えるものだとある意味感心する。
「ほな、俺らは帰るわ」
ははは、と苦笑いをしながら向日先輩と芥川先輩を引き摺るようにもと来た道を戻っていく眼鏡の先輩を見届けていると、隣からため息が聞こえた。
日吉君も苦労しているようだ。
「ええわぁ、青春って…」
「忍足親父くさいC」
「跡部にも教えてやろうぜ!」
曲がり角に姿は消えたが、声が筒抜けで聞こえているこちらが恥ずかしい。
私と日吉君の間に沈黙が流れ、いたたまれなくなったのか日吉君はスタスタと歩き始める。
それを追いかけて隣に並んだが、気が引けて一歩下がる。
それでも、確認したくてしょうがない。
「…日吉君」
「……何だよ」
「私と付き合ってくれるの?」
「………そういうことになるな」
間を置いて、ボソリと呟いた日吉君の隣に今度こそ並ぶ。
ニヤニヤと緩む口元を抑えながら笑っていると、隣から気持ち悪いと言われたが、照れ隠しにしか聞こえないのでそんなにダメージは感じなかった。
20120706