葛藤アドバンテージ

家に帰り、今日手にした二つの封筒をカバンから出して眺めること数分。現状に頭をかかえるしかなかった。


「……うーん」


唸りながら、放課後に日吉君宛に預かったラブレターの裏と表を確かめる。
流石に人伝に渡すのを頼んできただけあって、封筒は糊付けされている。
光にかざしたら手紙の内容が透けないだろうか、と部屋の照明に翳してみたが、手紙の内容は読めるはずもなかった。

ため息をついて手紙を握ったままテーブルに伏せる。
何故預かってしまったのかといえば、逆にあの状況で断ることの方が難しかったからだ。
それに、断れば彼女達に私の感情が知られてしまうし、それはどうしても避けたい。
しかし、ラブレターを受けとってしまったせいで自分が傷ついているあたり、自滅行為であることには変わりない。
それにもし、このラブレターの差出人の二人のうちどちらかと日吉君が付き合うようになってしまったら、私はどうすればいいんだろう。


「…あああぁ」


唸りながらラブレター二通を放り投げ、机をバンバンと叩く。
何やってるんだ私は!と自分で自分を殴ってやりたい。
やるせなさに任せて机を叩き続けていたら、リビングにいた母親から「静かにしなさい!」とお叱りの言葉が飛んできた。

大人しく机を叩くのをやめて、顔の向きを変えてから放り投げたラブレター二通を眺める。


片方は半強制的にだが、もう片方は私自信が一度受けとってしまったものだ。
ならば、この二通のラブレターを日吉君に渡さなければならない。
どちらも私の都合で蔑ろにできるものではないのだ。


「………」



こういう時に誰かに相談できればいいのだが、今までこういう関連の話を友達にしたことがないので恥ずかしい。
携帯を握り、こういう話に詳しそうな友達のアドレスを開く。
いきなりこんなことを聞いてもいいのだろうか、というかやっぱり恥ずかしい!
思わず携帯電話すらベッドに投げつけて机に頭を打ち付けた。
隣の部屋からまたお叱りの声が聞こえたがそんなもの知ったことか。
何度かガンガン頭を打ち付けている私は第三者から見たらさぞや不審に見えるだろう。


取り敢えず、心を落ち着かせるためベッドに寝転がる。
天井を見つめてから、ふと頭の辺りに異物感を感じてそちらに顔を向ける。
何かと思えば、この前学園祭の最後に日吉君と撮った写真が赤い封筒からはみ出していた。
ベールを被って笑う私の隣で、驚いたようにこちらを見ている日吉君が写っている。

ちなみに、この写真は二枚現像してある。
そのうち一枚は既に私の宝物になりつつあり、机の引き出しに大切にしまってある。
もう一枚は日吉君にも渡そうと思ってわざわざレターセットを購入してきて、その封筒に写真を入れていた。
ベッドの上に転がしていたあたり管理不足なのだが、それを丁寧に手を取り眺める。
写真を入れ直して封を閉じると、まるでラブレターのようだ。





そこでふと、ある考えが過った。



私も、書いてしまおうか。


20120611 執筆