「……日吉君」
くるりと後ろを振り向くと、次の授業の準備をしていた日吉君がこちらを見た。
席替えをしてから1週間が過ぎていたが、私の後ろの席に座る日吉君と話したのはこれが初めてだった。
「何だよ」
同じクラスになってからずっと思っていたのだが、こいつには愛想ってものが無い。
初めて話す相手に良いイメージを与えるのは悪く無いことだと思うのに、日吉君にはそういう気は更々無いようだ。
まあ、どうでもいいかと思いつつ、私の机の中に入っていた封筒を差し出す。
淡いピンク色の封筒には、丸っこい可愛らしい字で日吉君へ、と書いてある。
それを見て、日吉君は眉間にシワを寄せた。
「これ、間違えて私の机の中に入れられてたみたいだから」
「……いらない」
「…は?」
いやいや、いらないと言われても私が困るんだけど。この手紙をどうしろというんだ。
封筒を持ったまま呆気にとられる私をスルーし、日吉君は家から持参したであろう小説を取りだし読み始める。
「いらないって言われても、私が困る」
「俺もそういうのは迷惑だ」
「…いや、例えそうだとしても日吉君宛なんだからこれどうにかしてよ」
「……はぁ」
あからさまにため息をつくと、日吉君は本を開いたまま私の手から手紙を取った。
そして席を立つものだからどこに行くんだろうと思えば、なんと教室の後ろにあるゴミ箱にそれを捨てた。
呆然とその様子を眺め、席に戻ってきた日吉君をじっと見ていたら、まだ何かあるのか、と不機嫌に顔を上げた。
「読まないの?」
「ああ」
「何で?」
「……逆に聞くが、読まなきゃいけないのか?」
鋭い視線がこちらに向けられる。
日吉君の表情から怒っているというのが分かったと同時に、その原因が私の発言であるということも理解した。
「だって…折角くれたんだし」
「どうせ中身は好きです付き合ってください、とかそんなものだろ。それに答える気はないから読まない」
再び小説を開いて、その文字を追う目の動きを眺め不思議に思った。
愛想が悪いなとは思っていたが、まさかここまで性格がひねくれているとは思わなかった。
なんでこんな奴に人気があるのだろう。
「……日吉君がモテる意味が分からない」
「奇遇だな、俺も分からない」
ペラリとページを捲る音がやけに耳についた。
何だか苛々するなぁ、と思いつつ後ろを向いていた姿勢を直す。
それにしても、ラブレターを入れた女子にしろ、何でこんな奴を好きになったのか理由が聞いてみたいものだ。
見てくれ以外に評価できそうなものが見当たらない。
あ、そうか。見てくれでしか判断していないのか、納得納得。
20120407