進行ラブシック

学園祭も終わり、いつも通りの学園生活に戻った頃。
この時期から体育の科目を各自で選択し実施することになる。

私が選択したのは硬式テニスである。
完璧に日吉君の影響を受け過ぎていることは置いておいて、今日はその選択授業の初日である。
何クラスか合同で体育を行うので、クラス以外の生徒もいるからメンバーには新鮮さがある。
更に人数が男女共にある程度いることから、男女混合で5つ程のチームに分け、そのチーム内での練習がメインになる。
テニス部の生徒はそれぞれのチームに平等に分担され、テニス部の生徒が中心となって授業は進行していく。

テニスというスポーツの技術を身に付ける、というのも目的のひとつだが、授業でのスポーツはそれよりも団体行動での協調性などを身に付けることに重きを置いている。
なので、男女混合であることもテニス部の生徒を分けて配置することも、テニス部員として決して楽しめる内容ではないのだ。
更に初心者を相手にしなければいけないので、口には出さないが部員達はつまらなそうにしている。
試合を組ませてもらえるのも授業の後半からなので、余計にだ。私だけの話ではないが、なんだか申し訳ない気がする。


私が振り分けられたのは、二宮さんがリーダーを勤めるチームである。
この班にはもう一人男子のテニス部員がいるが、二宮さんは女子テニス部の部長候補らしく、リーダーシップをとれるのはその男子部員よりも二宮さんの方らしい。
二宮さんの他に、各班のリーダーを勤めるのは男子テニス部員ひとり、女子テニス部員ひとり、そして日吉君と鳳君だ。

テニス部の現役レギュラーが同じ授業に二人もいるから、二人がもし試合をすることになったらかなりの見ものだ。

鳳君のチームにいる女子は嬉しそうにキャアキャア喜んでいるが、一方日吉君のチームはシンと静まり返っている。
どうやら日吉君以外は皆初心者のようで、現役レギュラー兼部長の日吉君に怯えているようだった。
そうでなくても日吉君は普段から目付き悪いからな〜とクスクス笑っていたら、二宮さんに名前を呼ばれた。


「苗字さんはボール係ね」

「ボール係?」

「授業前にボールの準備をしておくだけの係だよ。頼んでもいい?」

「分かった」


テキパキとチーム内での仕事分担を決めていく二宮さんを見ると、成る程流石に部長候補である。
もう一人の男子テニス部員は、面倒くさそうにあくびをしているから、リーダーもやはり二宮さんが適役だ。


そのまま二宮さんの指示に従いながら、初日は軽くラケットに触れてボールを打つくらいで終わった。




「…お前、テニス選択してたんだな」


体育の後、着替えて席につくと日吉君が口を開いた。
そういえば日吉君には言っていなかった。


「テニスが一番楽しそうだったし。それに、日吉君テニス部でしょ?」

「は、」

「普段何にも興味なさそうな日吉君が唯一打ち込むものがどんなものか気になってね」

「…馬鹿にしてるのか」

「そうじゃないよ。…でも、前からやってみたいとは思ってたんだ」



そう、全ての理由が日吉君に結び付く。
テニスだって日吉君がやっているからで、少しでも知識がつけばもっとたくさん話すことができるかもしれない、テニスの楽しさを共有できるかもしれない、日吉君が私に興味を持ってくれるかもしれない。
下心をかかえながら毎日毎日、日吉君のことを考えながら過ごしていく。
少し前の自分なら考えられないくらい、ふわふわとしたピンク色の世界に頭が支配されている。
なんだが自分自身がむず痒い。



「…そうか」


ほら、そうやって時々優しく笑ってくれるから、追いかけたくなる。


20120529 執筆