シンオウ地方の旅行雑誌を見ていたら、同じく別の旅行雑誌を見ていたマツバも同じような反応を示した。
「会議でヨスガやナギサには行ったことはあるけど、その他は知らないな」
「あんまり土地勘が無いから計画たてにくいな〜」
突然だが、私の両親はシンオウ地方のクロガネシティで化石の発掘、研究をしている。
二人の出会いはアルフの遺跡、プロポーズの言葉は「化石になってもお前といたい」
母さんはイチコロだったという。
そんな二人に、ついにマツバが挨拶に行こうと言ったのだ。
仕事もかなり先のものまで片付け、ジムを留守にすることも事前に告知してある。
あとはシンオウに行くだけだ。
しかし、折角遠くの地方にまで行くのだから、旅行をして帰ろうという話になった。
そして今、旅行のプランをたてているのだが、なかなか思うようには進まない。
「シンオウには何回か行ったことあるんだけど、かなり前のことだから殆ど覚えてない」
「おい…。ちゃんとご両親の家把握してるんだろうな」
「正直それも曖昧」
うわー、というような表情で見てくるマツバの視線が痛い。
マツバの後ろに立っているゲンガーも、キシキシ笑いながら旅行雑誌を眺めている。
「マンションは覚えてるけど、部屋までは覚えてない」
「お前はどこまで僕を笑わせてくれるんだ」
「いや、マツバのそれ笑ってるけど何か違うよね。嘲笑いだよね」
「仕方ない、僕の千里眼でどうにかするか」
「無視か。というか連絡して部屋聞けば早い話じゃない」
「ああ…」
そうだった、とマツバはぼんやりと呟いた。
マツバにしては珍しく、簡単なことを見落としていたようだ。
しめた!と思い今までの仕返しだと、からかおうと思ったが、マツバがじっと雑誌のあるページを見ていたので、言うのをやめた。
何を読んでいるのだろう、と横から覗いて見れば、水着姿の可愛い女の子がたくさん写っていた。
うん…見なかったことにしよう……いや、無理だ。
「何、その目」
「……マツバのスケベ」
「………何か勘違いしてないか?」
「どスケベ野郎ぐえっ!」
どスケベの「ど」の辺りですでにマツバはマフラーを外し、「スケベ」の辺りで私の首にそれをかけ、「野郎」のあたりで思い切り締められた。
流れるような動作に感心したが、今はそれどころでは無かった。
「ごめん、今何て言った?」
マツバはまぶしい程の笑顔だ。それが逆に恐怖心を煽られる。
「ぐええ……マツバ様ちょーイケメン」
「そんなことは分かってるよ」
なんという自信だ、正直引くぞ。
マツバもマフラーを締めたのは一瞬だけで、あとは緩く私の首に巻き付けているだけだった。
「これを見てたんだよ」
はぁ、とため息をついてマツバが先程の水着美女達が写っているページを広げた。
そして、マツバが指差す場所を見ると、水着美女達の向こうに、小さく見覚えのある人物を見つけた。
「……何してんのこいつ」
「さぁ…」
この青い海、白い砂浜、戯れる美女達の向こうに、暑くるしいマントを翻した自称スイクンハンターが小さく写っていた。
なんでこいつシンオウ地方にいんの。
「恐ろしい程砂浜が似合わないよね、特にマントが」
「来てる服もスーツだし、かなり暑そう…」
そこではたと、目の前にいるマツバを改めて見直した。
黒の長袖に、紫のマフラー、ヘアバンド。
「マツバも白い砂浜とか似合いそうにないよね。完全に秋冬装備だもん」
「僕もあまり好きじゃないな、海って。日焼けするし、暑いし、人がいっぱいいるし」
「でも、この季節なら人はいないでしょ。海に行くにも早すぎるし……」
ふむ、と頷きミナキが小さく写っているページに付箋をはる。
「ナギサシティだって。行ってみる?」
「もうどこでもいいよ」
「そっか」
マツバは旅行雑誌に飽きたのか、座布団を丸めて枕にし、寝転がった。
ゴロゴロしているマツバを見るのは、久しぶりなような気がする。
最近は忙しそうにしていたし、折角の休日に旅行雑誌を持って押し掛けてしまった私としては、申し訳ない気持ちになった。
「それじゃあ、後は私が決めておくね」
「ソノオ」
「え?」
「ソノオタウンに行く」
「はぁ…」
どうやらマツバはソノオタウンに行きたいらしい。
しかし、この町には花畑以外ほぼ何も無い場所だ。
花を見たいわけでも無さそうだし、まさか蜂蜜のような甘いものをここに求めているのだろうか。
どれだけ甘党なんだ。
「何か言った?」
「いえ」
とりあえずソノオタウンに行くことを考えつつ、来週のシンオウ旅行の予定を練るのだった。
20111026