親友は大抵気が利く

シロガネ山に籠っていたレッド君にお世話になり始めて2日が過ぎた。
その日の朝、洞窟の中にツンツンヘアーの少年が転がり込んできた。


「おいレッド!…って、」

少年はレッド君を見た後、私の存在に気付いたらしく、こちらに視線を向けたまま固まった。
固まること数秒、少年は驚いた表情のままたずねてきた。


「貴女…もしかして、ナマエさん?」

「え、」

なんで私の名前を知っているんだろう、と不思議に思っていたら、ツンツン少年はレッド君を怒鳴り付けた。


「レッド、どういうことだ!?」

「…何?」

うるさいなぁ、と不快感まるだしの表情で対応するレッド君に構わず、少年なくどくどと文句を言っている。


「生きてるじゃないか!」

「生きてるよ」

「いやお前…死体見つけたって電話かけてきただろ」

「見つけたよ」

「はぁ?」



お互いに食い違う話を続けて収集がつかなくなってきた。
私が言うのもあれかもしれないが、待ったをかけて言い合う二人を止めた。
うるせぇお前は黙ってろ、的な目で見られたが気にしない…ようにした。
とりあえず、二人それぞれの話を聞いた。



まとめるとこうだ。

レッド君は、シロガネ山散歩中に女性の死体を発見した。
とりあえず、と少年…グリーン君と言うらしい…に連絡をし、今シロガネ山の天候が悪いから落ち着いたら引き取りに来いと一方的に話して電話を切ったらしい。
その数時間後、レッド君は落下してきた私とフライゴンとカイリューを見つけた。

一方、死体を見つけたと連絡をうけたグリーン君に、ワタルさんから連絡があっらしい。
内容は「シロガネ山に一般人が落下してしまった。捜索が困難なため、シロガネ山の地理に詳しいレッドに協力してもらえるよう頼んでもらえないか?」というもの。
そこでグリーン君は、レッド君からあった連絡をすぐにワタルさんに伝えたそうだ。
するとワタルさんは無言になって、暫くしてやっと「その話はいつ聞いた?」と冷静に質問したらしい。
グリーン君がついさっき連絡があったと告げれば、また暫く無言状態になり、グリーン君に礼を告げて電話を切ったらしい。


そして昨日、グリーン君に電話がかかってきた。



「死体の確認をしてもらうために、死体を連れて帰って来いと言われた。…てっきり、貴女のことだと思って、死体確認でエンジュのジムリーダーを呼んじまった」

「マツバを?」

「ああ…。だけど、勘違いだったみたいだ」

そうだったとしても、喜べないことには変わり無いけどな。
そうポツリと呟いてグリーン君はカイリューに視線をやった。



「ワタルから聞いてる。そのカイリュー…落ち着いたのか?」

「…うん、もう大丈夫」


レッド君はカイリューを撫でながら、グリーン君に、このカイリューが死んでしまったトレーナーのポケモンであることを話した。
それを聞いてグリーン君は一瞬表情を変えた。
そして暫く黙っていたかと思えば、レッド君と同じようにカイリューを撫でてやっていた。


「悪い、さっき不謹慎なことを言った」


グリーン君がカイリューにそう謝ると、カイリューは首をふって鳴いた。










「…とりあえず、あんたは連れて帰る。リーグ入り口でジムリーダー待たせてるし…それに、今なら下山しても大丈夫そうだ」


カイリューを撫でていた手を止め、急にグリーン君がそう言った。
そしてすぐにモンスターボールからピジョットを出し、背中に飛び乗った。

あまりにも急すぎる行動に反応が遅れたが、慌ててボールを投げフライゴンを外に出した。
フライゴンの背中に乗る前に、レッド君とカイリューの方に振り返り、お礼を言った。


「レッド君、2日間だけだったけど、いろいろありがとう。…カイリュー、私が生きているのは、あなたのおがげよ。助けてくれてありがとう」


レッド君は無言で頷き、カイリューはどういたしまして、というように鳴いた。
カイリューのそれが無理をしているということに申し訳なさを感じながら、フライゴンの背中に乗った。



天候が収まったといっても、シロガネ山の頂上は普通よりは荒れている。

荒れる空気の中、先導してくれるピジョットの後について飛行していると、グリーン君がこちらを振り返った。



「もう少し急ぎます」

「…うん」


先ほどから思っていたのだが、なんでグリーン君はこんなに急いでいるのか。
レッド君の洞窟(住処)に来てから10分も経っていないのに、下山すると言うことはワタルさんに早く帰って来いと言われていたんだろうか。
それでも、レッド君とカイリューにもう少しお礼が言いたかったなぁ。


そんなことを考えていたら、不意にグリーン君が言った。



「なんで俺がこんなに急いでいるんだろう?って思ってます?」

「え、あ、うん」


なんで分かったんだろう、と不思議に思っていたら、顔に出ていると言われた。
私はそんなに分かりやすい表情をしていたのだろうか。



「言いましたよね、リーグの入り口にエンジュのジムリーダーを待たせてるって。…あなたが無事だったことを、まだ知らないんですよ」

「…!」

「さっきリーグで会った時、顔色悪かったですよ」


誰の、なんて聞かなくても分かった。
そこでやっと、グリーン君が急いでいた理由を理解できた。
そこまで言われないと気づけなかった自分が情けない。



「早く安心させてあげた方がいいと思いますよ」


「…そうだね、ありがとう」




心配をかけてごめんなさい、私も早く貴方に会いたいです。



20110624