仕事入りまーす

昨日はさんざんな目にあった。
ジムに挑戦しに来たマツバファンの集団が、最初のジムトレーナーすら倒せるか怪しいと言っていたマツバに「お前初戦やれよ」と命令が下された。
目と後ろに従えているゲンガーが怖かったので、素直に指示に従った。
これマジでマツバのパシリなんじゃ?と考えそうになったがどうにか自分をごまかした。

臨時ではあったものの、最初のジムトレーナーとして女の子集団と戦った。
ちなみに、全勝。
人数が人数なだけに時間はかかったが、流石にリーグを目指したポケモントレーナーだったこともあり余裕を持って勝利することが出来た。
ただ、ジムというものは、そのトレーナーがあるレベルに達しているかどうかをテストするものであり、規定されたレベルを越えてもいけないし下回ってもいけない。
昨日の私の戦闘は、エンジュジムの規定レベルを越えてしまったのではないのか、とマツバに言えば「ジムに挑戦する理由がポケモントレーナーとして相応しくない」と珍しくフォローしてくれた。
昨日の女の子集団のジムへの挑戦理由が「イケメンジムリーダーにお近づきになりたいだけでバッチには全く興味がない」という人達ばかりであることをマツバも気づいている。
それには同感だったが、やっぱりムキになりすぎた気がする。

久しぶりのポケモンバトルで気持ちが舞い上がった、というのもあるが、何か許せなかった。

何だろう、と考えてはみたものの答えは浮かんでこない。

考えてこんでいると、ふいに声をかけられた。


「すいません」
「あ、はいっ」

すっかり忘れていたが、今は仕事中だった。
私の仕事場というのはここ、コガネ百貨店。
私の担当は警備員である。
過去にポケモントレーナーであり、そこそこ腕がたったことと、コガネのラジオ塔がロケット団に占拠されたという過去があるということで警備を固めたい、という理由から警備員として採用された。
ちなみに、依頼されればコガネ百貨店に限らず出張して警備の仕事をしたりもする。


気持ちを切り替え、お客さんの方へ振り向くと、そこには出来れば会いたくないヤツがいた。


「…なんでマツバがここに」
「言葉づかいに気をつけなよ。僕は今お客さんなんだから」


相変わらず不適にニヤリと笑う姿が様になっていてむかつく。
これだから顔がいいヤツは。
さっきから入り口を通過する女のお客さんの視線がチラチラ集まってきている。
そして私とマツバが会話をしているという事が伝言ゲームのように伝わり、巡りめぐって女の子に私が呼び出されるという負のスパイラル。

「……何か、ご用件は?」
「特に無いよ。ナマエがちゃんと働いているのか心配で」

棒読みである。
最近思う、こいつわざわざ嫌がらせのためだけに、コガネ百貨店に来ているんじゃないか。

「では、おかえりやがれ」
「お客さんには丁寧な言葉を使わないとダメだろ」
「チッ、……そうでございますね。では、とっととお帰りくださいませ」
「ところどころ本音が零れてるよ」


マツバはアハハ、と何が楽しいのか始終笑顔だ。
マツバが笑顔になるにつれて私の顔もひきつっていく。
そして女性の買い物客がマツバの笑顔を見て、彼にときめくのだ。
恐るべし、マツバスマイル。


(マツバスマイルを写真に撮って売れば儲かるかも……)


今度、やってみようと思う。