目を覚ますと、マツバの綺麗な寝顔がすぐそこにあり、私の腰にはしっかりと腕が回っている。
しばらくマツバを見ていたら、マツバもゆっくりと目を覚まして、優しく微笑んでくれる。
二人で初めて迎えるそんな朝を期待した、私が馬鹿だった。
「さ、さむい……」
ブルリと体を震わせ目を覚ませば、そこはマツバの布団の上だった。
昨夜の情事で身に何も付けてはいないので、余計に寒い。
隣を見れば、布団にくるまって眠るマツバを確認できた。
マツバがかけ布団を全て体に巻き付けているので、私は全裸の状態で寝ていたということになる。
とりあえず、恥ずかしいし寒いので、そこらへんに散らばっている浴衣を掴む。
まだ早朝なので、外は暗く視界が悪い。
掴んだ浴衣がマツバのものだったが、深く考えずに腕を通し、更に自分の浴衣を自分の上にかける。
これで少しは寒さを凌げると思ったが、浴衣は当然ながら薄く、まだ寒い。
チラリとマツバを見たが、ピクリとも動かない。
マツバだけ暖かそうでずるい。
布団にくるまり、ぬくぬくと寝ているマツバの顔をのぞきこみ、頬をペチペチと叩いてみた。
するとマツバは少し唸ってから目を覚まし、ぼんやりと私の方を見た。
「……おやすみ」
「いやいやいや」
それはないでしょマツバさーん、ともう一度頬をペチペチ叩いたら、すさまじい形相でに睨まれた。
めちゃくちゃ怖いんですけど。
「眠いんだよ」
「…あ、はい…すいません」
何を謝っているんだろう、と自分でも思った。
そのままもぞもぞと布団に潜り込み、目を閉じたマツバを見て呆然とした。
普通…その、情事の後、彼女を布団に入れず、睡眠優先する彼氏…って無いよね?
あれ、私がおかしいのか?
不満を持つどころか、かかえきれないくらいあるが、マツバに逆らうと後が怖いので言い出せない。
どうしよう…と、マツバを見ていたら、昨夜の事を思い出してしまった。
途端に恥ずかしくなって、マツバから少し距離をとり、背中を向けて座る。
適当に羽織っただけの浴衣から自分の肌が覗いており、そこをマツバの手が伝ったのだと思うと、顔に熱が集まった。
男のくせに、やたら色っぽかったように思う。
暫くその色香にあてられてマツバを直視出来なかった。
しかし、マツバにしては珍しく余裕というものを感じなかった。
何だか必死に求められているようで、心臓がぎゅうっとなる程嬉しくなったのを覚えている。
こんなことを考えていたら、また顔に熱が集まってきた。
昨夜の情事でじんわり痛む下腹部に手をおいて、顔の熱が冷めるのを待つ。
「……痛むか?」
「え、ちょ、わ…」
後ろから腹部に腕が回ってきたと思ったら、肩にマツバの顎が乗った。
背中にマツバの体温を感じて、せっかく冷ましていた顔の熱が、再びもどってくる。
ああ、心臓もドキドキしてきた。
「ちょっと、だけ…」
「……そうか」
後ろから回る腕に少し力がこもる。
マツバも心配してくれたのか、と少し嬉しくなって、背中からマツバにもたれかかった。
「……で、何で僕の浴衣着てるの?」
「マツバが布団全部持って行くから、寒かったの」
「へぇ、そう」
「……もうちょっとさぁ、悪いとか思わないの?」
「あんまり」
「ちょ、…マツバ」
腹部に回っていたマツバの腕が動いたと思ったら、羽織っていた浴衣の中に手が侵入してきた。
直に肌を撫でられ、ゾクリと背筋に何かが駆け上がった。
同時に、首筋に生温かく柔らかい感触を感じて、心臓がドクリと高鳴る。
ちゅ、というリップ音が耳に響く。
「や…、ちょっと…」
「黙って」
「無理…ぁ」
羽織っていたマツバの浴衣が、肩からスルリと落とされた。
上半身がむき出しになったので寒さを感じるはすなのに、体が沸騰しそうなほど熱い。
背中に感じるマツバの肌の感触も、追い討ちをかけるように昨夜を思い出させる。
「ん、ゃあ…、も、ダメだって…」
「ふーん」
「やっ、あ、!」
「……濡れてるけど?」
クスクス、とマツバが耳元で笑ったのと同時に、もたれかかっていたものが無くなり、パスンと布団の上に背中から倒れた。
同時にマツバが覆い被さってきたので、恥ずかしさで視線を反らす。
「まだ朝早いし、もう1回する?」
「……嫌、って言ったら?」
「言わせない」
そう言って口を塞いできたマツバに成る程、と納得した。
最初から私の意見なんて聞くつもりは無いのだろう。
いや…聞かずとも分かっているのだ、マツバは。
それがなんだか悔しいが、素直にマツバの背中に腕を回す。
きっとこれで、答えは通じたはず。
(嫌じゃないんだ?)
(……意地悪)
20110501