座敷でお茶を啜りながらヒビキ君はニヤニヤした表情で聞いてきた。
ヒビキ君の隣ではミナキが怪訝な顔でヒビキ君を見ている。
そしてジムリーダーの仕事の関係で家に来ていたハヤト君は、驚いたようにこちらを振り向いた。
「マツバさん、彼女いるんですか!?」
「……まぁ」
彼女と言うよりは、それ以上の関係だけれど。
そういえば、まだミナキにも話していなかった。
とりあえず、煎餅を机の上に置いたら全員遠慮なくそれを掴んでいった。
こんな異色なメンバーは初めてのはずなのだが、妙にしっくりきていることに逆に違和感がある。
「で、どうなんですかマツバさん?」
「ぼちぼちだよ」
「嘘ですね」
ニヤリ、と笑うヒビキ君からは僕と同じ臭いがする。
体臭とかではなく、人間の種類としての。
ということは、このメンバーの中で一番厄介なのが彼だ。
ミナキはなんとでもなる、ハヤト君は…少し頬を染めながらも話に興味津々な様子を見ると、こちらの方面には初なんだろう。
それに、以前ナマエもハヤト君のことをヘタレだと言っていた。
だとしたら、やはりヒビキ君が一番危険な人物だ。
「昨日ナマエさんに会ったんですよ。見間違いでなければ……ここに指輪してたんですけど?」
そう言ってヒビキ君は、自身の左手の薬指を指差した。
やはり、ヒビキ君が一番厄介だ。
「なに、どういうことだマツバ!?」
「………そのままの意味だよ」
「え、マツバさん……プロポーズしたんですか?」
「そうだよ」
至って冷静を保つが、内心かなり気恥ずかしい。
周りから向けられる好奇の視線が、なんとも居心地が悪い。
「嘘だろ、あのお前が……」
ミナキは驚愕の表情でこちらを見ている。
普段の僕をよく知っているミナキだからこそのリアクションだった。
ヒビキ君はニヤついているが、ハヤト君はもじもじしている。
「マツバさん、どんな風にプロポーズしたんですか?」
「……秘密」
そう言えば、「かっこいい…」とハヤト君がポツリと呟いた。
ヒビキ君はつまらなそうにしているし、ミナキはいまだに驚いたままだ。
このリアクションを見る限り、その人の人間性と、どれだけ僕と関わりがあって僕のことを知っているかが良く分かる。
「じゃあ、もう結婚するんですか?」
「…いいや、まだしないよ」
「何でですか?」
単純に疑問に思ったから来る質問であることは分かっている。
しかし、その質問をされると返答に困る。
結婚しないのではなく、出来ないのだ。
誤魔化そうか、本当の事を言おうかと考えて、別に隠すことも無いだろうと、本当のことを言うことにした。
「親戚がさ、お見合いを薦めてくるんだよ」
「…お見合い?」
「僕はこれでも、一族の頭主を任されている人間なんだ。
その頭主が、一族以外の女性と結婚するのは、あまり良く思われていないんだよ。
それで、僕に恋人がいることを知った上で、一族の人間からお見合い相手を紹介されているんだ」
「……そうなんですか」
先程までニヤニヤしていたヒビキ君の表情が急に真面目になった。
ハヤト君も、口を引き結んでこちらを見ている。
ミナキは、黙ったままバリバリと煎餅を食べていた。
「まず親戚をどうにかしないと、結婚は無理だね」
「………大変なんですね」
「…まあ、そうだね」
その後、3人共やけに気をつかい始めたので、本当のことを言うんじゃなかったと後悔した。
(マツバ、いつでも俺達は力になるぜ!)
(そうかい、じゃあ僕の友人にストーカーはいらないからやめてもらえないかな)
20110406