「ねぇ、持ってあげようとは思わないの?」
「思わない」
「なんで!こんなにも彼女が苦しんでいるのに!」
「苦しむのはお前だけでいい」
かっこいいセリフなんだけど、"お前"が残念である。
苦しむのは"お前"じゃなくて、"僕"だったらかっこよかったのに、下手したら惚れ直すところだったのに!
「はは、苦しそうだな」
「そう思うなら、手伝ってよ」
「どうしようかな」
くっそー、と思いつつ袋を持ち直す。
ナイロン袋が重みで手に食い込んで痛い。
それが両手に負担がかかるから尚更だ。
「……ったく」
ため息をついて、マツバは私の片手にあった袋を奪った。
しかも重たい方の袋を持ってくれた。
「やっさし〜」
「ニヤニヤするな」
マツバは私から距離をおいて歩き始めた。
それにムッとして、距離をつめるがマツバはまた距離を取る。
それを繰り返していたら、聞いたことのある声に呼び止められた。
「おばちゃん達なにしてるの」
マツバと二人して振り向けば、リーちゃんが立っていた。
しかも、リーちゃんの隣には綺麗な女の人が立っている。
「こら、失礼でしょ。
すいません、うちの妹が……」
「え、リーちゃんの…お姉さん?」
「え?」
よく分かっていないだろうリーちゃんのお姉さんに、いろいろと説明をする。
リーちゃんが以前マツバの家に預けられたこと、その時に知り合いになったことなどを説明したら、リーちゃんのお姉さんは固まってしまった。
そんなに驚くことなのだろうか。
「…先日はうちの妹がお世話になりました」
「いえ」
リーちゃんのお姉さんは、ペコリとマツバに頭を下げたが、顔を上げてもじっとマツバを見ている。
まあ、マツバは顔がいいし、女性がみとれる姿なんて何回も見ているから、慣れたものだ。
「あの……マツバさん、」
「何か?」
「…………いえ、何でもありません」
「そうですか」
不意にマツバが私の腕を掴んだ。
何だ、と思いつつマツバの方を見たら、固い表情をしていた。
いつも笑顔を振り撒いているマツバにしては珍しい。
「それでは、僕達はこれで」
そのままグイグイと引っ張られ転びそうになったがなんとか耐え、リーちゃんとリーちゃんのお姉さんに頭を下げた。
リーちゃんはブンブンと手をふっているが、お姉さんは浮かない顔をしていた。
「…マツバ、どうしたの」
「お腹すいたから、さっさと帰るぞ」
マツバにしては、下手な誤魔化し方だった。
しかし、これ以上聞いたとしても、マツバは話してくれないだろう。
なんとなく不安になって、捕まれていた腕をほどき、マツバの掌を握ってみた。
すぐに握り返されたから、少し安心した。
20110401