黒は揃えるな

マツバに私用があり、ジムへ行きドアを開けたら何故かスイクンがいた。
驚き過ぎて叫び声すら出なかった。
スイクンもスイクンでびっくりしたらしく、数歩下がってこちらの様子を伺っている。

見間違いか?と思いつつドアを閉めて、もう一度開けたがやっぱりスイクンがいた。
え、なんで?


「あ、ナマエさん」

「……ああ、ヒビキ君か」


そうだった。
ヒビキ君はスイクンを捕まえたんだったと思い出し、一人納得した。
スイクンはいまだに私を警戒しているようである。


「びっくりしたよ。何でドアの向こうに伝説のポケモンがいるのかと思ったよ」

「すいません。ミナキさんにスイクンを出せとせがまれたもので」


ヒビキ君の後方に視線をやれば、何故か凍った床の上に倒れているミナキがいた。


「……ねぇ、ミナキに何したの?」

「ミナキさんには何もしてませんよ。ただ床を凍らせただけです」


なるほど、床を凍らせてミナキを滑らせ、戦闘不能にしたわけか。


「そんなにミナキうざかった?」

「ははは、うざいってレベルじゃないですよ」


無邪気な笑顔で笑うヒビキ君がマツバと被った。
ヒビキ君がブラック覚醒している気がするんだけど、気のせいだよね。
誰か気のせいだと言ってくれ。


「ジムで何してるの?」



そうこうしているうちに、本家ブラックが現れた。
本家ブラックもスイクンを見て驚いたらしく、動きが止まった。


「何でスイクンが……」


「すいませんマツバさん。ミナキさんがどうしてもと言うので……やっちゃいました」


「……ああ」


床に転がっているミナキを見て、マツバは納得したように呟いた。



「そんなにうざかった?」

「ははは、うざいってレベルじゃないですよ」

「だろうね」


ふーん、と呟いてミナキを見た後、凍った床を見てヒビキ君に言った。


「この床とミナキはどうにかしておいてよ」

「分かりました。すいません、勝手なことをしてしまって」

「構わないよ。君の気持ちはなんとなく分かる」

「ありがとうございます、マツバさん」


そしてマツバもヒビキ君も笑い会うのだが、ここは笑うところでは無いと思う。
というか、二人ともミナキを何だと思っているのか。
かなり扱いがひどい。


チラリ、とスイクンを見れば、若干顔がひきつっていた。
そしてスイクンもこちらを見た。




「スイクン、君は付いていくトレーナーを間違えたんじゃないの?」



「……………」




スイクンは目を伏せた。



20110330