「まだー」
「お腹すいたー」
「ちょっと待ってね〜」
ひまだからマツバお兄ちゃん遊んでー!と、リーちゃんはマツバに飛び付いた。
何故いまだに蕎麦が出来ていないかというと、マツバが天ぷら蕎麦が食べたいと言ったからである。
そう、問題は天ぷらだ、天ぷら。
じゅうう、と揚げ物をしながら軽く後ろを振り替えると、マツバにベタベタしているリーちゃんが見えた。
マツバもニコニコしている。くそ、このロリコンめ。
「何か言った?ナマエ」
「イイエ、ナンデモ」
何故だろう、声に出して無いはずなのにマツバに気づかれている。
これも千里眼の能力なのか?
そんなことを考えつつ、蕎麦を盛り付ける。
天ぷらを添えて、リーちゃんとマツバに出すと、リーちゃんは喜んでくれた。
二人して、いただきます、と言って蕎麦を食べている様子はまるで親子のようだ。
なんだか微笑ましい。
天ぷらの後処理をして、私も蕎麦の入ったドンブリを持って、座敷に座る。
「かせいふさんも、ご飯食べるの?」
「?そうだけど」
「じゃあ、はい!手をあわせて」
パン!と勢い良くリーちゃんは手を合わせた。
どうやら音頭をとってくれるらしい。
「「いただきます」」
二人して手を合わせたら、マツバも珍しく穏やかに笑っていた。
なんだろう、私達、まるで家族みたいだ。
なんだか温かい気持ちになって、暖かい蕎麦を食べたら体も温かくなった。
「へぇ、リーちゃんにはお姉ちゃんがいるんだ」
「うん。すっごくビジンさんなんだよ」
「へぇ〜」
「ナマエとは大違いだな」
「ちょっとマツバ余計なこと言わないで」
マツバを睨むがまるで効果は無かった。
するとリーちゃんは、クリクリとした目で、じっとこちらを見てきた。何だろう。
「なに?」
「ナマエおばちゃん、笑った時は可愛いよ」
「え!?」
予想外の発言に驚いた。
私がかなり驚いたせいか、若干リーちゃんが引いている。
「そ、そう?」
「……うん。笑った時はね。今の顔は怖いけど」
「…ありがとう!」
この後、私はルンルン気分で皿洗いをしていた。
私の見えないところで、マツバとリーちゃんが目をあわせて呆れていたとは露知らず、可愛いと言われただけで有頂天になっていた。
だって可愛いなんて、そうそう言われる言葉じゃないもの。特に、私は。
暫くすると、リーちゃんのお父さんがお迎えにやって来た。
リーちゃんはお父さんに飛び付き、お父さんはマツバにお礼を言っていた。
「ところでマツバ君、例の話なんだが……」
「…申し訳ありませんが、僕の意志は変わりません」
「そうか……」
何の話だろう。
リーちゃんのお父さんは少し残念そうだった。
チラリと私の方を見て、リーちゃんのお父さんはリーちゃんを連れて帰って行った。
「例の話って…何?」
「ああ、大した話じゃないよ」
「ふーん」
マツバの態度から、本当に大したことではないのだろう。
特に深く追及はしなかった。
(また、遊びに来てくれたらいいね)
(そうだな)
20110327