そうウインディに相談してみれば、いいんじゃないの?というように頷いた。
若干めんどくさそうに頷いたけど、気のせいだよね?
うん、気のせいだ。
「マツバ…怒らないかな?」
それは分からん、というようにアリアドスは首を傾げた。
ボールの中でラグラージもフライゴンも首を傾げた。
私は今、タマムシシティに来ている。
コガネ百貨店からの出張で、1週間程このタマムシシティのタマムシデパートに出張警備をすることになった。
どうもタマムシデパートで1週間程、世にも珍しいポケモンがやって来るらしい。
名前は…忘れた。
しかし、今の私にとって珍しいポケモンなんてどうでも良かった。
タマムシに来て5日が過ぎた。
大人のくせに、誠に恥ずかしいのだが、マツバが恋しくなったのだ。
今まで何だかんだで、ほぼ毎日顔を会わせていたので、会っていないと何か物足りないし、その…寂しいというか、なんというか。
「ベタ惚れじゃん」
うわああ、と頭を抱えた。
私こんなにマツバの事好きだったのか、と今更ながら実感した。
チラリ、とベッドの上に転がっているポケギアに目をやる。
画面は既に、アドレス画面のマツバの番号を表示している。
あと、発信のボタンを押せば、すぐに電話は繋がる。
恐る恐るポケギアを手に取る。
なんでマツバに電話をかけるくらいで非常に悩んでいるかと言うと、マツバに電話をかける理由が見つからないのだ。
マツバの声が聞きたい、というのが本音だが、まさかそれを本人に直接言えるわけが無い。
調子はどう?なんて今更過ぎる。
ミナキは元気?もおかしい。
ちょっと聞いてよマツバ、今日上司がさ〜……も違う。
うーん、と悩んでみるが解決策が見つからない。
どうしよう、もういっそ電話をかけてしまおうか。
そう思った途端、突然着信音が鳴り始めた。
画面に表示された名前に少しがっかりしつつ、電話に出る。
「何、ミナキ?」
「おお、ナマエか。お前今どこにいるんだ?」
「あれ、言ってなかったっけ。出張警備でタマムシにいるの」
「そうか、俺はお前の家の前にいる」
「……何してんの?」
「ちょうど通りかかっただけだ。最近お前を見てないな〜と思って。マツバの家に行っても、お前いないし」
それって、私がマツバの家に入り浸っている、と言いたいのか?
確かに、頻繁にマツバの家に行っているが、全部マツバが夕飯作れだの掃除しろだの言うから、仕方なく行っているんじゃないか。
…あれ、これってパシリなのか?あれ?
「今日マツバが言っていたぞ、お前がいないと寂しい、と」
「え!」
「遊び道具が無くて」
「…………」
だよね、だろうとは思ったよ。
あのマツバが素直にそんな事を言うわけがない。
「で、いつ帰って来るんだ?」
「明後日の夜に帰って来るよ」
「そうか。それじゃあ、お前も朝早いだろう。電話を切るぞ」
「うん」
「あ、ちょっと待て」
「ん、何?」
「マツバに電話をしてやってくれないか。ああ言っているが、奴も寂しがっている」
「ウソだー」
「確かめてみたらどうだ?」
それじゃあ、おやすみ。
そう言ってミナキとの電話は切れた。
緩んだ頬でポケギアを眺める。
ミナキの言う事だ、もしかしたらもしかしたら、マツバも私に会えなくて寂しがってるのかな。
そう考えたら嬉しくて、すぐに発信ボタンを押すことが出来た。
マツバに電話をかける理由を考えていないが、どうにかなるだろう。
数コール後に聞こえた声に懐かしさを感じつつ、幸せな気持ちになった。
(もしもし、マツバ?)
(何?)
(いや……あの……)
(…………)
(ちょ、調子どう?)
20110324