着信音の設定を、死の着信メロディから黒電話の音に変えたのは、もう随分前の話だ。
これでもうアイツに怒られない!と思っていたが、苦い顔をされた。
何で黒電話?と聞かれて、本音はマツバの家に黒電話がありそう(実際は無い)だから、だったが、何だか怒られそうな気がして適当な理由をつけておいた。
「ジムに5分」
そう言っただけでポケギアの通信はブチリと切れた。
ああ、やっぱり着信音は前のやつに戻そうかな。
「遅い」
「5分は無理だわ」
ゼェハァと息を荒げてまで走ってきたというのに、いいじゃないか。
だって5分って。
私5分前に起きたばかりだったんだからな!
「…で、今日は何?」
「ああ……ほら」
マツバは1枚の紙を手渡してきた。
その紙の一番上には「ポケスロン大会についてのお知らせ」と書いてあった。
「……ポケスロン大会?」
「ほら、自然公園の隣に大きなドームがあるだろう」
「ああ、あの派手な建物ね」
「結構先になるけど、あそこで今度ポケスロン大会とかいうイベントがあるらしいんだ。
普通のポケスロンとは少し変わったルールで競技を行うらしい」
「ふぅん…。で、何、私にこれに出ろと言いたいわけ?」
「よく分かったな」
「そりゃあ分かるよ。マツバが私に電話をかけてくる時なんて、何か頼み事がある時しか無い」
「頼み事というか、面倒を押し付けているだけだ」
「へえ、自覚はあったんだね」
くっそー、この野郎…とは口に出しては言えない。
言えばこの男に何をされるか分からない。
「……あれ、でもコレ。ペアで参加って書いてあるよ」
「ああ。だから、お前に言っているんじゃないか」
「…え?マツバも出るの?」
「今回のそのイベントは、全国中継するらしい。ポケスロンという競技を世界中に広めることが目的らしいが……。
まぁ、結構大きなイベントなんだよ。
だから、近隣のジムリーダーに出場要請がかかっているんだ。……ジムリーダーがいた方が、番組的にも盛り上がるだろうから、だとさ」
「じゃあマツバは強制参加なんだ」
「ああ。ちなみに、僕以外ではキキョウのハヤト、コガネのアカネ、アサギのミカンが出場する」
「えっ、ハヤト君出るの?」
実は、ハヤト君には前から会って話してみたいと思っていたのだ。
テレビでしか見たことが無かったけれど、あの初々しいイケメンは私のツボである。
ヘタレだというのも好ポイントだ。
そうかそうか、ポケスロン大会に出るのか。
ニヤリと心の中でほくそ笑んだ。
するとマツバに頬をつねられた。
「いたいれす」
「ニヤニヤするな。気持ち悪い」
「ニヤニヤしれた?」
「おぞましいくらい口端が上がってた」
「ひどい」
やっと離してもらった頬を擦る。
なんだか最近よくマツバにつねられているような気がするのは気のせいだろうか。
「で、どうする?出ろ」
「どうする?って聞いた後に命令する人初めて見たわ」
「出場するなら選手登録しなきゃいけないんだ。早くしろ」
「はいはい出ます出ます」
「よし、使用ポケモンは一人一匹だ。どのポケモンにする?あと、ニックネーム」
「え、それも決めるの?」
「大会側が出場者の紹介するために情報が必要なんだそうだ」
「へぇ〜…じゃあ、フライゴン」
「…は?」
「だから、フライゴン」
「お前…嫌がってたわりには本気だな」
マツバは呆れたように言った。
フライゴンは、私の手持ちの切り札である。
以前ポケモンフェスティバルでダイゴさんに対して使い、バトルステージをめちゃくちゃにしたのは、もう昔の話……にしたい。
とにかく、私がフライゴンをつかうのは本気モードの時だけである。
「だって、そんなに大きな大会だったら、入賞商品も凄いんでしょう?」
「めざといな……」
「で、入賞したらどうなの?」
「1位がイッシュ旅行、2位がシンオウ旅行、3位がホウエン旅行」
「旅行ばっかじゃん」
「4位から10位までは、ポケスロン協会特製ボンジュース1ダース」
「いきなりクオリティが下がってるじゃん」
「ちなみに、参加賞はオリジナルジャージだ」
「いらねぇぇ」
何がしたいんだポケスロン協会。
とりあえず、大会当日の開会式でポケスロン協会責任者の顔を見ておこうと思った。
「で、フライゴンのニックネームは?」
「フラ様」
「………」
マツバが何やら可哀想なものを見る目でこちらを見てきた。
え、何、その目は。
(なんでフラ様?)
(私のフライゴン俺様なんだもん)
(……へぇ)
20100104