ただ、純粋に疑問に思った。
だから、聞いたのに、目の前の人物は何でそんなことを聞くんだ、と言いたげな顔をした。
「何故それを俺に聞く?」
「ミナキさん、マツバさんの親友なんでしょ?」
自称スイクンハンターと名乗るミナキさんと知り合ったのは、少し前のことになる。
俺がスイクンを捕まえてから、しばらく嫉妬され、付けられる(世間ではストーカーという)こともあったが、それも大分収まり、ちょくちょく世間話をする仲になった。
ただ、毎回スイクンのことは聞いてくるけど。
外では雨が降っていた。
これは明日になるまで止まないだろうな。
そんなことをぼんやりと考えていたら、ミナキさんが口を開いた。
「俺の推測だが、」
「はい?」
「マツバはナマエにベタぼれだ」
「え?」
ナマエさんにベタぼれなマツバさんは、想像がつかない。
マツバさんに初めて会った時は、優しい好青年だとしか思わなかったけれど、この前ナマエさんから聞いたマツバさんの話からすると、本性はかなり問題があるようだ。
俺様意地悪ドS!見た目に騙されるな!とナマエさんは言っていた。
それに、確かにこの目でマツバさんが「来ないと呪うぞ」と言っていたのを見た。
「来ないと殺すぞ」と言っているようにも見えたが、多分呪うぞ、の方だと俺は思う。
そこで、俺もハッキリとマツバさんの本性を理解した。
だからこそ、想像がつかない。
そんなマツバさんが、ナマエさんにベタぼれだなんて。
「全然想像つかないんですけど」
「だろう、俺も想像がつかん。だが、ナマエの事が絡むとマツバは怖い」
「へぇ…。例えば、どんな感じですか?」
「以前、ナマエと昼食を食べに行く約束をしている事をマツバに言ったら、シャドーボールの攻撃をうけた」
「それは……怖いですね。というか、容赦ないというか」
「だろう?後、ナマエがポケモンバトルの最中、相手のポケモンのニューラに攻撃されて怪我をしたことがあるんだが」
「あ、それ知ってます。俺、ちょうど見ていたんですよ」
「そうなのか?なら話が早い。
ナマエのバトルの相手が、マツバのファンの連中だったんだ。マツバがナマエの様子を見に行った時に、そのファンの連中がいたらしくてな。
謝ってきたらしいんだが、媚びてくる様子が気に入らなくて『これ以上ナマエに何かしたら、君たちのこと嫌いになりそうだ』と言ったらしい」
「マツバさん、かなりご立腹ですね」
「だろう。ヒビキとのジム戦の後にマツバから聞いたんだ。
かなり爽やかな笑顔で言っていたよ」
「それ逆に怖いですね」
というか、本当にマツバさんは、ナマエさんにベタぼれじゃないか。
本人の前でどうだろうと、他人の前では、そこまで自分の感情を剥き出しにするのか。
俺も一度見てみたい気がする。
「今度、マツバさんの前でナマエさんをデートに誘ってみましょうか」
「やめておけ、後でどうなっても知らんぞ」
確かに。
痛い目は見たくないから、やめておこうか。
そんなことを考えつつ、何気なく窓の外を見たら、話の中心人物が仲良くひとつの傘に入って、歩いていた。
「ミナキさん…あれ見てください」
「む…、デートか」
「ですね。ひとつの傘に入ってますし、それに二人揃って浴衣なんか着てますよ」
しかも、傘はちゃんとマツバさんが持っている。
遠目だから分かりにくいけど、ナマエさんも嬉しそうにマツバさんに寄り添っている。
何だ、俺達が知らないだけで、二人はちゃんとイチャついているのか。
「あ、ナマエが溝にはまった」
それを見たマツバさんは、スルーして歩いて行ってしまった。
声は聞こえないが、ナマエさんが何やらマツバさんに言っている。
「ナマエさんって、期待を裏切りませんね」
「だな」
ラブラブなのか違うのか、微妙な二人だと思う。
20110320