会議も終わり、晴れてマツバは自由になった。
ここからが本当に観光である。
嬉しくてニヤニヤしていたらマツバに若干引かれたが、気にしない。
「コンテスト?」
「そう、コンテスト。ジョウトにはないでしょ。ちょっと見ていかない?」
「ああ」
やって来たのはミナモシティ、ここにはマスターランクのコンテスト会場もあるし、デパートもある。
少し歩けば、おくりび山もある。
マツバはゴースト使いなので、ホウエンのゴーストポケモンには興味があると思うのだ。
案の定、コンテストをぼんやりとしか見ていなかったマツバは、おくりび山では異常なくらいテンションが上がった。
「あれは?あのポケモンは何て言うんだ?」
「ジュペッタ」
「あれは?」
「カゲボウズ。ジュペッタの進化前だよ」
「あれは?」
「…ヨマワル」
「あれは?」
「……え、どれ?」
何もいないところを指差すマツバにゾッとした。
何が見えているんだ、というか何がいるんだ。
冷や汗を流し、マツバの服の裾を掴んだ。
「ヨマワルね……」
マツバはモンスターボールを投げ、ゲンガーを出した。
そして間髪入れずにヨマワルにシャドーボールを繰り出した。
この時、そこを飛んでいたヨマワルを本当に不憫に思った。
マツバはモンスターボールを投げ、ヨマワルを捕獲。
流れるような動作に、唖然とした。
「じゃあ、次に行こうか」
「……うん」
まぁ、マツバが楽しいのならいいか。
そしてそのまま、夜になるまでおくりび山を散策し続けた。
「よし、じゃあ今日はこれで最後ね」
「…まだあるのか、もう満足なんだけど」
おくりび山から出た瞬間、テンションの下がるマツバをひっぱり、そらをとぶを使いトクサネにやって来た。
マツバのテンションは、おくりび山で出しきったんじゃないかというくらい低い。
今日のメインイベントはこれだったのに。
「…それにもう、随分暗いぞ」
「そうだね、誰かさんがおくりび山で3時間もうろうろしていたからそうなったんだよね」
「で、次は何。僕もう眠いんだけど」
「……ラグラージ」
モンスターボールから出たラグラージは、心得たというように海に飛び込んだ。
「よし、乗ろう」
「……何処へ行くんだ」
「行ってからのお楽しみよ」
マツバは不安げにこちらを見た。
そんなに信用ならないのだろうか、少し悲しくなった。
しかし、不安そうだったわりにはすんなりとラグラージの上に乗った。
ラグラージの上に人間二人が乗ったので、ラグラージが少し呻いたが、どうにか我慢してもらった。
そして補足だが、マツバとの距離が近い。
ラグラージも大きいが、人間2人が乗れば流石に狭く、お互いの肩がくっついている。
意識しはじめたらドキドキするもので、チラリとマツバを見ると水面をぼうっと眺めていた。
もしかして、本当に眠いのだろうか。
ここ2日間、会議があったにも関わらず観光に振り回してしまったので、疲労がたまっているのかもしれない。
「やっぱり……やめる?」
「なんで」
「だって…眠いんでしょ」
「まぁね」
「…帰ろっか」
「いいよ別に」
「でも……」
言いかけた時、コトリと頭に何かが乗った。
乗ったというよりは、寄りかかったという表現が正しいかもしれない。
「マツバ……重い」
「空気読みなよ」
「……………」
ここから空気を読んでどうすればいいんだろう、と本気で考えた。
何故マツバが今寄りかかっているのかも分からないというのに。
「着いたら起こして」
「…着くまでこの体勢なの?首痛くなりそうなんだけど」
「首鍛えられていいじゃないか」
そう言ってマツバは静かになった。
本当に寝ているのだろうか、確認したかったがマツバの頭は私の頭の上に寄りかかっているので分からない。
仕方がないので、そのままラグラージに指示を出して海底に潜った。
目をさましたマツバは、きっと驚くだろうな。
(……ここ、どこ?)
(海底よ。綺麗でしょ)
(…どうやって)
(ダイビング、っていう技でね。知らなかったでしょ)
(知ってはいたけど…。体験したのは初めてだな)
(チョンチーがイルミネーションみたいで綺麗でしょ〜)
(……お前もロマンチックなことするんだな)
20110202