以前ホウエンにいたこともプラスされ、予定を立てるのも、なかなか手慣れたものだと思う。
フラワーショップを後にし、マツバと落ち合ってやって来たのは、フエンタウン。
温泉で有名なところである。
「ふぃ〜〜」
「じじくさ……」
「聞こえてるよ」
マツバはハッと鼻で笑って、外の景色を眺めた。
私はというと、マツバの隣に座り、温泉に肩まで浸かっている。
ここ、フエンタウンの有名な温泉は混浴である。
もちろん、皆タオルを巻いている。
だからマツバと一緒に温泉に浸かっているのだが、なんとも気恥ずかしい。
もちろん、マツバ以外にも人はいる。
おじいさん、おばあさん、そしてこちらを見るおねえさん。
おねえさんの視線の先はマツバである。
見てしまう気持ちは、よく分かる。
今のマツバは、ものすごく色っぽい。
白い肌に、細身ながら男性らしい腕、湿度のせいでくたりと下がった髪。
それに温泉の温度で赤くなった頬、もはや目の毒である。
「あっちの方に見える雲みたいなものは何?」
「火山灰よ。この辺りは火山の活動が活発だから、ずっと降ってるの。あの灰を集めるとビードロと交換してもらえるよ」
「へぇ」
珍しく素直に話を聞くマツバからは、観光を楽しんでいるように見えた。
ホウエンが本当に珍しいのだろう、フエンタウンに来る前も辺りをキョロキョロしていた。
なんだか子供っぽいところもあるんだなぁ、と笑ったらマツバがこちらを向いた。
「何か、名物は無いのか?」
「フエン煎餅があるよ。あとは漢方かな」
「ふーん……」
煎餅か、と呟いてマツバはまた視線を景色へとやった。
この様子では、帰りにフエン煎餅を買って帰ることになりそうだ。
「そうだ、砂風呂もあるんだけど、どうする?」
「いいよ、温泉だけで」
「…マツバって温泉好きなの?」
「それなりに」
それなりに、とは言っているが、きっと好きなんだろうな。
そんなことをぼんやりと考えていると、マツバがこちらを向いた。
「あんまりこっちを見るな」
「……見てた?」
「見てた」
やれやれ、とマツバは言ったが、温泉の中で指をからめるように手を握られた。
本当に言ってることとやっていることが逆だ。
マツバにはそういう行動が多いということを、付き合い始めて気付いた。
「素直になればいいのに」
「何か言ったか?」
「いいえ、別にー」
握られた手を握り返せば、マツバが微かに微笑んだ気がした。
(明日は、いいところに連れて行ってあげるね)
(わかった、期待しない)
(………本当、素直じゃない)
20110116