自分の家と書いてジム

ここ何日間か、マツバを意識し過ぎて突拍子もない行動を起こしていたように思う。
我ながら、なんて子供のような反応かと恥ずかしく思う。
ただ、ジムトレーナーのいたこさん達に生暖かい目で見られるのは、なんとも居心地の悪いものだった。
なんだかニヤニヤしているし、ミナキも最近同じような表情をしているように思う。
ミナキに至っては、時々可哀想なものを見る目で見てくるので少々腹がたつ。
話が少し反れたが、そんな視線にも慣れてきた。
そして、なんとかマツバの前でも正常状態を保てるようになってきた。

しかし、今は少々正常状態を保っていられない。
原因はマツバとはまた別の、違う問題である。


「マツバ、今ジムを借りられないかな」
「……どうした、目が据わってるぞ」

珍しくマツバは驚いているようだった。
私から発せられるオーラに気付いたのか、いつものようにおちょくってはこなかった。


「ジムで何をするつもりだ?」
「ポケモンバトル」
「誰と?」
「女の子4人と」
「何でまた…」

呆れた、というような顔をしたマツバの胸ぐら(マフラー)を思わず掴んでしまった。
いつもの私からでは考えられない行動だ。
それくらい、私は今怒っているのだ。

「離せよ」
「すみませんでした」

いくら怒っているとは言っても、マツバには逆らえませんでした。
というかマツバに首をしめられている気がするんだけど、いやコレ気のせいじゃない!

「マツ……苦し…ゴホッ」
「だろうね」

いや、だろうね、じゃなくて離してくださいお願いします。
必死に謝ると、暫くしてやっと解放してくれた。

「で、何でそんなに怒っているんだ?」
「聞いてよマツバ!」
「いやだ」
「自分から聞いておいて、それはないでしょ」

半ば半泣き状態で頼み込むと、聞いてやろうと偉そうに言ってきた。
お前は俺様か、あぁ、俺様だ。
「私の手持ちにアリアドスがいるの知ってるでしょ?」

「知ってる」

ポンッとボールを投げ、例のアリアドスを出す。
このアリアドスとは、イトマルのころからの付き合いである。
手持ちのガーディ(現在はウインディ)で初めて捕まえたのがイトマルだ。
それがまぁ、今では立派なアリアドスに。

「思い出に浸る前にさっさと説明しろ」

「ああ、ごめん」

若干機嫌が悪くなったマツバに焦りながら、先程あったことを説明する。

「さっき自然公園でマツバファンに絡まれてね、ポケモンバトルをしようってことになったの。まぁここまではいつものことなんだけど……なんとまぁそのマツバファン軍団が私のアリアドスを見て『きゃー!気持ち悪いー!女なのに虫ポケモンなんか手持ちに入れてるの!?』なんてぬかすから、『ふざけんなミーハー!』って言ってやったの。そうしたら当然向こうも怒ってね。やっぱりポケモンバトルをすることになったんだけど。今回ばかりは私本気出そうと思うんだ。だから私が本気出しても壊れないバトルステージのあるジムを借りたい」

「駄目だ」
「なんで!?」
「そんな私情のためにジムを使っていいものじゃない」

珍しく真剣な表情でマツバはそう言った。
確かに、ジムはジムリーダーとチャレンジャーとの神聖な場所。チャレンジャーはジムリーダーを倒すために、ジムリーダーはチャレンジャーの度量をはかるために、お互い真剣勝負をする場がジムだ。
そう思い至ってマツバに申し訳なくなった。
私は、ただ怒りに任せて軽い気持ちでジムを借りようとしていた。
本当に申し訳ない。


「……あれ、何かいい匂いがする」

「ああ、ゲンガーが焼き芋を焼いているんだよ」

「へぇ、どこで?」

「バトルフィールドで」


「………………ねぇ、マツバさっき何って言ったっけ?え?」


とりあえず、私のさっきの長い反省文は全て無しの方向で。



(私情を越えて自分の家みたいになってるじゃん)
(僕のジムだからいいんだよ)

20101125