素直とは

ナマエの様子がおかしい。
そう思うようになったのは最近のことだ。


「……何してる?」
「ぎゅあっ!?」


電柱の影に身を潜め、キョロキョロしている不審な女は、バカな幼馴染みだった。
しかも叫び声すら噛むという暴挙。
こんな奴と幼馴染みだと思うと、なんだかこちらが恥ずかしくなってくる。


「な、な、なななんでマツバがそっちに……」
「は?」
「いやっ、何でもないです!すいません失礼しますいません」

そう言うや否や、ナマエは全速力で走って行った。

最近多いのは、これだ。

少し話をすると、突然逃げるようにどこかに疾走する。
前に一時期、避けられていたこともあったが、それよりはマシとは言え、こちらもなんとも言えない。

それから、最近よく目が合う。
というか、よくこちらを見ている気がする。
別に自意識過剰なわけではなく、視線をやたら感じるし、一度ゲンガー達に確かめてもらったこともあるので、これは本当だ。



「かなり意識されている気がする」


「よく分かっているじゃないか」


座敷でスイクンの資料を読んでいる友人に相談してみると、質問を肯定するような返事が返ってきた。
肯定するというよりは、まるで知っているかのような口振りだった。


「良かったじゃないか。後はお前が素直になるだけの話だ」
「…何が?」
「とぼけるなよ。分かっているんだろ」


ミナキには何もかもがお見通しらしい。
長年の付き合いからか、ミナキにはあまり隠し事は出来なかったように思う。


「確証はないけど、僕を意識しているんなら面白いな」

「ほらまた、素直じゃない」



ミナキはハァとため息をついた。
今まで集中していた資料からすらも視線を外し、額を手で覆っている。
そこまで深いため息をつかれると、なんだか腹がたつのでモンスターボールからゲンガーを出した。


「ゲンガー、シャドーボールだ」

「待て待て待て、落ち着けマツバ!」


ミナキは慌てて待ったをかけた。
それを見てゲンガーはシャドーボールを放つことを中断した。
まぁ、はじめからシャドーボールをうたせるつもりはなかったんだけど。


「冗談はやめてくれ!」

「ははは」

「ははは、じゃない!」


ミナキはそうとう頭にきたらしい。
何やら口元をわなわなと震わせ、広げたスイクンの資料を整理し始めた。
そして整理し終わった資料をまとめ、カバンにしまうとズカズカと廊下を歩いて行った。
どうやら帰るつもりらしい。

一応、玄関まで見送りに行くとミナキは未だにイライラしていた。
そして、戸に手をかけようとしてグルリと振り返った。


「俺は今からナマエと昼食を食べに行く約束をしているんだざまーみろ!」


そう言うや否や、勢いよく戸を開けようとしたが、ピクリとも動かなかった。
どうやら、ミナキが戸に手をかけるよりも僕がゲンガーに出した合図のほうが早かったらしい。
ゲンガーはしっかりと戸を押さえていた。



「へぇ…そうなんだ?」

「!?」


ミナキがゆっくりとこちらを振り向いた。
表情は固く、振り向く様も人形のようにギギギとぎこちないものだった。



「ゲンガー、シャドーボール」

「待てマツバ!だから冗談は……!」


「冗談じゃないよ」



青くなったミナキの顔は、とても面白かった。





(素直になれ?僕は結構、素直だと思うんだけどな)

20101124