何の前触れもなくナマエは言い放った。
腕を組み、仁王立ちで鼻をフンと鳴らす。
凄いだろ!と言うように得意げな顔をしている。
「無理だろ」
「なっ!」
何を期待していたのか、ナマエは口をパクパクさせていた。
何か言いたいことがあるなら、声を出して言えばいいのに。
「…な、なんで?」
「旅に出て、何をするつもり?」
「ポ、ポケモントレーナーに……なるの」
「ポケモントレーナーになってどうする?」
「………マツ…」
言いかけて、ナマエは口をつぐんだ。
言いにくいことなのか知らないが、目が泳いでいる。
白々しく口笛まで吹き始めたところを見ると、何かろくでもないことを考えているようだ。
「ポケモントレーナーになるなら、ジョウト地方中を一人で旅しなきゃならないんだぞ。
夜に一人で眠れない〜って毎日のように部屋に押し掛けてくる奴がそんなこと出来るのか」
「うっ」
「ヒワダのジムリーダーは虫使いだ。虫ポケモン苦手なナマエがジムに入れるのかすら怪しい」
「ぐっ」
「ジョウトは広い。コガネシティで迷子になるくらいなのに、ジョウト地方で迷子になったら二度と見つからないような気がする」
「ぬっ」
「一人で飯を作れない。野宿する時だってあるかもしれない。そんな時どうする?」
「くぅぅ…」
ナマエは悔しそうに下唇を噛んだ。
駄目じゃないか、そんなことをしたら傷になる。
そう思って無意識にナマエの唇に触れるとナマエは奇声を発して飛び上がった。
もう少し色気のある反応は出来ないのかと、自分の恋人ながら思う。
「なななな、なにすんっ」
「そんなに噛んだら傷が残るよ」
真っ赤になってコイキングの如く口をパクパクさせているナマエは不謹慎ながら可愛いと思う。
唇に触れただけでこんな反応をされては、この先の行為では一体どうなってしまうのか。
ちょっと悪戯心に火がついて、真っ赤な顔をして距離を取るナマエを捕まえてそっとキスをした。
何度も啄むように角度を変えて繰り返し、最後に先ほどナマエが噛んでいた下唇にそっと歯を立て、舐めて離した。
コイキングよりも真っ赤になった彼女はこちらを悔しそうに睨んでいた。
そして再び唇を噛もうとしている彼女のそれにもう一度触れる。
「僕が代わりに噛んであげようか?」
耳元で囁くと、ナマエはビクリと肩を震わせた。
ニヤリと笑い、真っ赤に染まる可愛い耳をそっと食んだ。
ワインレッドの幸福
(君がいなくなったら寂しいとかは、言ってやらない)
20100928
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