エプロンとは認めない

※男ってみんなこう、の続き




「デンジくーん」
「なに」
「なにコレ」
「パリコレ?」
「ボケてんじゃねぇよ。しかも上手くもねぇよ」
「アハハ」
「アハハ、じゃねーよ」

今、私の手の中には真っ白な生地にフリフリの飾りのついた、料理などをする時に主に身につけるものがあった。
簡単に言うとエプロン。
ただ、このフリフリワンピース寄りのエプロンをエプロンだと認めたくはない。

「オーバがくれてさ」
「あのアフロ…」

この前もデンジは「オーバにネコミミもらった」と言って耳のついたカチューシャを持って来た。
その前は「オーバがはらまきをくれた」と言ってデニムのミニスカートを持ってきた。
冷静にはらまきじゃないよ、とデンジにつっこんだ記憶がある。こういうところは、デンジはうとい。
その前は…セーラー服持ってきた気がする。これもまた「オーバが知り合いの女の子からもらったんだって。ナマエ着る?」とかぬかしていた。
流石に20越えてミニスカートのナマエと名乗るのは恥ずかしい。いや、名乗る時無いんだけど。

というか、全部オーバじゃん。何してくれてるんだあいつ。


「着るよな?」
「は?」
「それ、今夜着ろよ」

なんだろう、デンジの目が輝いて見える。
猫耳にもミニスカにもセーラー服にも反応しなかったデンジが、なぜかエプロンを見てテンションが上がっている。
なんだこいつ、きもい。


「今日ジム戦あるから、俺が帰って来たらそれで出迎えな」
「………嫌だ」
「何で?」
「恥ずかしいじゃん、こんなの」
「………この前、俺を突き飛ばしたのは誰だったかなぁ」
「…………」


タラリ、と汗が頬を伝った。

ぐっと唇を噛み締めると、デンジは勝ち誇ったように言った。

「絶対着ろよ」


そう言い残し、上機嫌で彼はジムへと出掛けて行った。

取り残されたのは、私とエプロン(仮)だけだ。
そのまま暫くフリッフリのエプロンを凝視する。
このフリフリを引きちぎってもいいだろうか。
デンジもフリフリちぎるなとか言ってないし、それ着ろよしか言ってないし。
うんうんと考えて裁縫ばさみを取り出したところでドアが開いた。
そこに立っていたのは、先程家を出て行ったデンジだ。


「…何してんだ?」
「え、ジムは?」
「終わった。ただいま。
で、何してんだよ?」
「……………」

早すぎだろ、とは言えなかった。言いたかったが、言えば多分…やられる。
こちらを見るデンジの目が据わっている。
出かけ際のキラキラした目が嘘のようである。
せっかくの覇気のない目に光が灯ったというのに、ものの10分くらいで消えてしまった。
変わりに、ゆらりゆらりと何やら怪しげな光を目に宿している。

「そのハサミは何?」
「いや…その…」
「いや、言わなくていい。
なんとなく検討がつく」


ニッコリと背筋の凍る笑みを浮かべ、こちらに近付いてくる。
デンジさん、怖いです。


「約束守らなかった罰だ。今日はそれだけ着て寝ろ」
「むっ、むり!」
「安心しろ。今夜は寝かせない」
「全く安心できないんですけど」



こうして、その日の夜ちゃっかり美味しく頂かれたとさ。



(何、デンジはエプロン好きなの?)
(…好きというか、新婚さんぽくっていいじゃねーか)
(しんっ!?)
(今度は一緒に風呂とかがいい)
(…………)



20101011
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