口下手な君の甘い弁明

「デンジ、好きな色は?」
「黄色」
「それは何故?」
「電気ポケモンっぽいから」
「嫌いな色は?」
「赤」
「それも何故?」
「オーバっぽいから」

「おい、どういうことだ」

隣に座るオーバがガタリと席を立ちかけた。
正面に座るデンジは特に変わった様子もなくレントラーの毛並みを整えている。
その様子をナマエはどうでもよさそうに見ていた。
そして、手元のアンケート用紙に先程デンジが答えた回答を書き始めた。


「つーか、それ何?」
「今度、雑誌でシンオウ地方のジムリーダー特集するらしいの。それのアンケートだって」
「四天王にはねぇの?」
「無いんじゃない?」

そう言うとオーバは少し元気が無くなった。
気持ちアフロが萎れているような気がしないでもない。
沈むアフロは放置し、アンケートを続ける。

「好きな食べ物は?」
「うまいもの」
「嫌いな食べ物は?」
「まずいもの」

もうちょっと真面目に答えられないのだろうかとデンジを見たら、ちょうど私のマリルに飛び付かれたところだった。
後方から先ほどまでマリルの相手をしていたライチュウがとことこやって来て、心配そうにマリルを見ている。
もうほとんど保護者のような状態だ。ごめんなさい、ライチュウ。


「趣味は?はいはい、機械いじりね」
「決めつけるんじゃねぇよ」
「じゃあ何?」
「機械改造」
「同じようなものじゃない」

これを真面目に言ってのけるからデンジは怖い。
天然というよりは、ボケているというか、ネジが飛んでいるというか、アホというか。


「…お、俺もアンケートやりたいなぁ」

隣のアフロが何やら切なそうな目をこちらに向けて来たが無視することにした。


「よく出かける場所は?」
「タワー、それか海」
「………オススメのデートスポットは?」
「家」
「家ってお前」

ここで的確にツッコミを入れてくれたアフロには感謝しよう。
そういえば、今までデートをした試しがない。
というのも、最近付き合い始めたということもあるのだか。
では、今までやたら家に来いと言っていたのはデートの誘いということだったのか。

「そのデートスポットの、どんなところがオススメですか?」
「楽」
「……ああ、そう」

なんともデンジらしい答えだった。
2人きりでいられるから、とか甘ったるい回答を考えていた私を殴りたい。
ハァ、とため息をついてアンケート用紙をめくった。
そして、そこに書かれていた質問達に愕然とした。
何なんだこれは。

「どうしたナマエ。早く次の質問言えよ」

「………」

ごくり、と息を飲んだ。
この質問の回答によっては、流石の私でも落ち込んでしまう。
チラリとデンジの様子を伺うと、マリルのしっぽを掴んでゴムボールのような先端をぷにぷにとつついていた。


「……今までに、彼女は何人いましたか?」
「………」

今までさくさく質問に答えていたデンジの動きが止まった。
隣に座るオーバがビクリと肩を震わせた。
この二人の態度で答えがなんとなく予測できて悲しくなった。

「言えないくらいいたんだね」

「あ、いや、ナマエ…」


急に慌てだしたデンジは頭にしがみついているマリルを引き剥がした。
隣でオーバがあーあ、と呟くのが聞こえた。


「そうだよねぇ。昔からデンジ君はおモテになられましたからねぇ」

「昔のことだろ…今は…お前がいるし」

「…べっ、」

「……べっ?」

「………」

「………」

「…何よ、その顔は」



デンジはポカンとした表情でこちらをじっと見ていた。
その理由をナマエは良く分かっていなかったが、それもそのはず、ナマエの顔は真っ赤に染まっていた。

暫くして、デンジが笑いながら抱き締めてくるものだから、驚いて固まってしまった。
ちょっとデンジ君、オーバいるんだけど。


「あー、お前時々かわいいよな」

「毎日かわいいんだよアホ」

「おうデンジ、このアンケートの続き俺が書いていい?」

「あー、書け書け」


私達を空気のように扱い、オーバはルンルン気分でアンケートを書いていた。

暫くこの金髪バカは離れてくれそうにないので、私もほんのちょーっと抱き締め返してやった。



(お前ツンデレだったんだな)
(いや違…ちがうよね)