目指すはナギサジム、つい最近恋人という関係になったアイツの所である。
変化した関係による少しの緊張と、差し入れのアイスを持っていざ出発。
腕の中のマリルもウキウキしていて嬉しそうである。
マリルのウキウキが伝染したのか、改めて実感した自分が彼の彼女であるということなのか、次第に気分が浮き立ってきた。
ふわふわとした気分のままジムに到着し、いつものようにジム内を通過する。
途中で会うジムトレーナーさん達と軽い挨拶をしながら仕掛けだらけの道(?)を進み、やっと彼のところに到着した。
彼はいつものように、挑戦者を待つ時間をもて余していた。
「デンジ」
「………」
「デンジッ!」
「………」
「デンジってば!」
「あーうるせー。聞こえてる聞こえてる」
なにやらごちゃごちゃとした機械をいじくっていたデンジはようやく反応を示してくれた。
デンジの膝の上にはライチュウが乗っており、デンジが振り向くと同時に膝から降りた。
「リルッ!」
それと同時に腕の中にいたマリルが物凄い勢いで飛び出した。
そしてデンジに飛び付くと嬉しそうに鳴き声を上げた。
説明しよう、私のマリルはデンジが大好きである。というか、金髪が好きらしい。
この前カントーのジムリーダー、マチスさんの写真を見てリルリル鳴いていた気がする。
基本、金髪なら誰でもいいっぽい。
甘えるマリルを見て微笑ましげにマリルの頭を撫でるデンジは目眩がするほど優しげに笑っていた。
「おぅ、今日も元気だな」
「リル〜」
もうメロメロである。
マリルは一度デンジに飛び付くと暫く離れない。
それを知っているデンジは、マリルを肩に乗せ、腰を上げた。
マリルは大好きなデンジの金髪にしっかりと捕まっている。
足元でライチュウがいいなー、というように鳴いた。
「よう、どうした?」
「差し入れ持って来た」
アイスの入った袋を差し出すと、デンジはサンキューと言って袋の中を覗きこんだ。
そしてガサゴソとアイスをあさり、ソフトクリームとソーダアイスを取り出した。
ソフトクリームの袋を破ってライチュウに手渡し、自分はソーダアイスを口に加えた。
「余りは冷蔵庫に入れておいて」
「ん、後で入れとく」
シャリシャリとソーダアイスを食べながら、デンジはマリルをゆっくりと頭から引き離した。
そしてソフトクリームをちろちろ舐めているライチュウの隣に降ろした。
それを見たライチュウはマリルにソフトクリームを差し出し、2匹で仲良くアイスを食べ始めた。
「ナマエは?」
「え?」
「アイス、どれにする?」
「あー…じゃあバニラで」
ん、とバニラバーのアイスを差し出され、それを受けとる。
若干溶けていたが、味は変わらないようなので良しとする。
「もう夏だね〜」
「そうだな。最近やけに暑い」
「…暑いのに、何でそのジャケット着てるの」
「出来るだけ着ていたいからいいんだよ」
「なにそれ」
何故そこまでそのジャケットに執着するのかよく分からない。
首を傾げる私をよそに、デンジはソーダアイスを食べ終えた。
そして、じっとこちらを……というか、私のバニラバーを凝視している。
「…なに、欲しいの?」
「まぁ」
「仕方ないなぁ」
はい、と半分無くなったバニラバーを差し出すと、デンジは無言でアイスに顔を近付けたように見えた。
しかし、デンジはバニラバーをスルーし、顔をナマエの目の前に寄せ、そのまま唇を塞いだ。
驚きのあまり、ナマエは硬直し手に握ったアイスをぼとりと落としてしまった。
しまった、と落としたアイスに視線をやると丁度ライチュウとマリルが視界に入った。
ライチュウはマリルの目を、小さな手で必死に隠していた。
ポケモンに気をつかわれるなんて、と恥ずかしくなった。
「ちょ、デン…んっ」
ちゅっちゅっとわざと鳴らしているだろう音を聞いて羞恥心が沸き上がる。
ライチュウはマリルを連れて退散して行った。
よく状況が分かっていないだろうマリルの鳴き声がよく聞こえた。
しばらく、キスを繰り返した後、デンジはようやく離れてくれた。
「ごちそうさま」
「…なにが、ごちそうさま、よ」
不覚にも息が上がってしまったことが悔しい。
デンジはというと涼しい顔をしていて、息が乱れた様子もない。
「急に何するの」
「したくなったから」
「なっ、にそれ…」
「照れるな照れるな」
「照れてない!」
デンジはしてやったり、という顔でナマエの頭をわしゃわしゃと撫でた。
最近よく見せてくれるようになった笑顔には未だに慣れないが、嬉しさだけは積み重なって、胸がぎゅうっと締め付けられる。
ほんの数日の間でのデンジの変化に、少し戸惑いを隠せない。
その戸惑い、というものは贅沢すぎるもので、簡単に言うと。
今が幸せすぎる
(好きな人が、笑顔を私に向けてくれる幸せ)
20101122