そして、ただの話相手、という関係でしかなかったデンジさんと、茶飲み友達になりました。
そのくらいの時間が、私がジムのしかけを解明できないまま、経過していた。
「なにが茶飲み友達だ、金が無くなって俺の家に居座ってるだけだろ」
「居座ってはいませんよ。食料をたかりにきてるんです」
「もっと達が悪ぃ」
私がデンジさんから強奪したクリームパンをかじると、デンジさんは眉間に皺をよせた。
珍しい反応、と思っていたらクリームパンを取り返そうと腕が伸びてきたので華麗にかわす。
暫くそれを繰り返し、デンジさんは諦めたように舌打ちをした。
「てめぇ……いい加減にしろよ」
「デンジさんクリームパン好きなんですか?」
「ちげぇ、それ彼女のだ」
「…彼女いるんですか?」
一瞬驚いたが、改めてデンジさんを見ると、それも当然か。
顔も整っているし、この見てくれでジムリーダーでもやっていれば、彼女がいてもおかしく無い。
「あ、別れたんだった」
「…何で忘れてるんですか」
「さぁ…?」
本気で首を傾げるデンジさんを見て、なんとなく別れた理由が分かった。
この短期間でデンジさんの性格は大分把握した。
デンジさんは、興味のあるバトルと機械いじり以外にはかなり無関心だ。
無関心というか、関心を持とうとしないというか、やる気が無いというか。
きっと彼女に対しても、同じような態度だったんだろうな。
「デンジさん、このままだと一生独身ですよ」
「いいよ別に、そう言うの面倒くさいし」
「折角、見た目はいいのに勿体無い……」
「おい、見た目は、って何だ。それだけか」
「ああ、あとバトル強いんですっけ?シンオウ最強のジムリーダーなんですよね?」
「…おい、その可哀想なものを見る目やめろ。褒められてる気がしない」
別に誉めたつもりは無いんだけどな、とは口には出さなかった。
これ以上デンジさんの機嫌を損ねると面倒くさそうだ。
「デンジさんは、誰かを好きになったこと無いんですね」
「なに、お前はあるのか?」
「そりゃあ、ありますよ。…実ったことは無いですけど」
「へぇ、俺と逆だな」
「……どういう意味ですか?」
「俺は今まで好きな女が出来たことは無いけど、彼女ならいくらでもいる」
「うっわデンジさん、その発言サイテーですよ」
「事実だろ」
ふん、と鼻で笑ってデンジさんは私の食べかけのクリームパンを奪った。
あ、と言う間もなくデンジさんはそれを食べた。
「ちょっとデンジさん何食べてるんですか!」
「いいだろ、元々俺のだし」
「だからって…食べかけじゃないですか」
「気にするなよ。……というか、何赤くなってんの?」
デンジさんがニヤニヤしながらこちらを見てくるので慌てて顔を反らしたが、すぐにそれが逆効果であることに気付いた。
デンジさんは吹き出したように笑いはじめ、私はもっと恥ずかしくなる。
「間接キス、って?」
「なっ…!」
「お前…、ウブなんだな」
クククと笑いを堪えるデンジさんにムッとしたので、再びクリームパンをデンジさんから取り返す。
クリームパンを取っても、デンジさんはツボに入ったのか笑い続けている。
「デンジさんと違って、そういうの慣れてないんですよ!」
フン!と鼻を鳴らしてクリームパンをかじったら、またデンジさんに笑われた。
20110818