私と彼の初タッグ

「ノボリも15両目だったんだ」

「ええ。今日はパートナーとして、よろしくお願いします」


既に慣れ親しんだ仲なのに、ノボリは丁寧にお辞儀をした。
それにつられて慌てて頭を下げた私も私だが、ちょうどそのタイミングで15両目のドアが開いた。
ドアからは、何やらプライドの高そうなカップルが現れた。
見た目からエリートトレーナーであることが分かる二人を見て、ノボリは帽子を被り直した。


「早速ですが、勝負のようです」


そのノボリの表情に、不覚にもドキリとしてしまった。
分かってるよ、と可愛げのない返事をして、腰につけているモンスターボールを外した。






初めてノボリと組んだバトルは、それは楽しいものだった。
ノボリと毎日バトルをしていたせいか、お互いの戦法を把握しているが故に、相手を尊重しつつ自分が出来る最も有効な手段を選ぶことができた。
意思疎通がとれているおかげで、とてもスムーズにバトルが進行できている。
こんなバトルは、初めてかもしれない。


「ダブルバトルって、こんなに楽しいんだ」

「ええ。これもわたくし達のコンビネーションの力です」


毎日バトルをしていただけはあります、とノボリも満足そうに呟いた。
心無しかノボリも嬉しそうにしているので、少し擽ったいような、なんともいえない感覚に陥った。


「…次の挑戦者は?」

「先程の連絡では、今10、13両目に二組いらっしゃるようですよ」

「早く来ないかなー」



ああバトルをしたくてたまらない、楽しい。
興奮が抑えきれなくなって、次の挑戦者が来るまでにバトルをしない?とノボリに言ったら小突かれた。
流石に駄目か。


「今日の仕事が片付いた後なら、構いませんよ」

「本当?」


ええ、と目を細めて優しく微笑むノボリに見とれたが、慌てて視線だけそらして誤魔化す。
今のノボリの表情はレアだなー、と思いつつ誤魔化しきれない心の揺れに羞恥心が襲ってくる。

何故だろう、最近ノボリがかっこよく見える。
もともと顔は整っているから当然と言えば当然なのだが、ただ表面上だけの問題でなく、ノボリ自身がかっこいいのだ。
バトルで指示を飛ばす時や、微かに目を細めて笑う時、毎日仕事に一生懸命な時などは特に。
ノボリという人間が顕著に現れていて、こちらがそれに惚れてしまうのだ。


「惚れ…」

「はい?」

「いや、なんでもない」


今自分でもさらっととんでもない発言をしたなぁ、と他人事のように思った。

いやでも、これは仕方無いだろう。
顔は整っているとは言っても鉄仮面。しかもムスッとした表情がテンプレートとなっている。
そんな人間が唯一表情と本音を覗かせるのがポケモンバトルであり、その時に動かない表情の下に隠れたノボリの情熱を知る。
まさにギャップというわけだ。
これにやられる女性駅員もトレーナーも、少なくない。


「おや、挑戦者二組とも勝利されたようです」

「…そう」


そろそろこちらにも来るのか、と準備をしつつ、隣でランプラーと共にうずうずしているノボリを見やる。
初めて会ったころは、こんなに感情だだ漏れのノボリを見ることはまず無かった。
あれから1年経ったけれど、随分と仲良くなったなぁと改めて実感する。


「ノボリって分かりやすいよね」

「…そうですか?」

「うん。表情は無いけど、ノボリの考えていること雰囲気でだだ漏れだわ」

「え!?」


何がそんなに衝撃的だったのか、表情をがっちがちに固めたままノボリも停止した。
そういうのが、分かりやすいって言うんだけど。


若干赤くなって慌てているノボリが面白いから、黙っておこう。



20120108