私と彼の日常

「ねぇ、クダリのタイプってどんな子?」


え?と段ボール箱を抱えていたクダリが首を傾げた。
そして、同じ空間で作業をしていたノボリも訝むような顔で私を見る。


「なに、いきなり…?」

「いや、後輩に『クダリ先輩の好み聞いてきてくださいっ!』って頼まれて」

私がそう言えば、何故かクダリは安心したかのようにそっと息をついた。
そして、少し考えてからいつもの笑顔で答えをくれた。


「可愛い子かな」

「あー…そういう曖昧な答えじゃ納得してもらえない気がするんだけど」

「うーん…じゃあ、お菓子作るのが上手な子」


上手い逃げ方をしたな、と思いつつ、頭にクダリの好みをインプットする。
お菓子を作るのが上手い子なんて答えを後輩に伝えれば、十中八九全員お菓子をつくってクダリに持っていくだろう。
お菓子が好きなクダリには願ってもないことだ。
普段子供っぽいところが目立って分からないが、クダリもクダリで頭が回るし、変なところで賢いのだ。
言わずもがな、ポケモンバトルのことも。


「後輩に納得してもらえるか分からないけど、そう伝えとく」

「うん、お菓子が楽しみ」


機嫌良さそうに本音を漏らすクダリにため息をついて、チラリとノボリの様子を伺う。
ノボリは相変わらずの無表情のまま、黙々とBP交換用のアイテムの詰め替え作業をしていた。
実はノボリのことも、後輩から頼まれていたのだが、なんとなく聞きにくい。
クダリに聞いた流れで聞いてしまえばいいのに、とは思うのだが、どうしたものか。


「ノボリのことは?」


えっ?と思わず声を漏らしてしまった。
クダリの方を見れば、「ノボリのタイプも聞かれたんじゃないの?」とまさにその通りのことを言われ、「え、ああ、うん」と戸惑った返事しかできなかった。

ノボリを見れば、アイテム詰め替えの手が止まり、何かを考えているようだった。


「…ノボリのタイプは?」


改めて私からノボリに訪ねると、そうですねぇ…と思い浮かんだであろうことを整理しているようだった。
何故だろう、ノボリの回答に少し緊張する。


「わたくしも、可愛らしい方が好みですね」

「いや…だから、さっきも言ったじゃない。それだと曖昧だって」

「では、何事にも一生懸命頑張る方でしょうか」


ということで、貴女もクダリも一生懸命仕事してください、と真顔で言ってくるノボリに力が抜けた。

一生懸命頑張るというのは…なんでもいいのか?と私の中でいつも一生懸命頑張っていると思われるものを探し出す。
ポケモンバトルと、毎日ノボリにバトルを仕掛けていることしか思い出せないんだけど、どうしよう。


「それ、ナマエちゃんの後輩に言ったら、仕事がスムーズになるんじゃない?」

「仕事が上手くいくことに越したことはありません」



整理が終わりました、とノボリにアイテムの入った段ボールを渡された。
各トレインの受付に持っていけということらしい。


「…なんだか二人共、後輩を誘導するための回答だよね」

「さぁ、どうでしょう。何でもいいので早く運んでくださいまし」

「はーい」


果たして二人の回答で後輩が納得してくれるのか非常に不満だが、これ以上聞いても似たような答えしか聞けないだろう。
好みくらい教えてくれたっていいじゃないか、と不満に思いつつ、段ボールを抱えて受付に向かった。







「…可愛らしい、ねぇ。
ノボリ、フィルターかかってるんじゃないの?」

「失礼ですね…」

「好きな子はみんな、可愛く見えるものなのかな」

「さぁ、どうでしょう」

「明日からナマエちゃんが仕事熱心になったら面白いよね」

「…………」



20111208