ポケフェスその4

午後、ついにこの時がやって来てしまった。

急に放送で呼び出しをくらい、駆けつけたら強制連行された。
というか、連れて行かれる警備員ってどうなの?
連行される中、じっとこちらを見る子供達にどうか見ないでとひたすら念を送った。

そして、連れてこられたのは予想通りというか、なんというか、バトルステージの上だった。

向かいには何が楽しいのかニコニコしたダイゴさん。
彼の手には既に一つのモンスターボールが握られていた。

「ダイゴさん、何ですか、これ。全く話を聞いていないんですけど」
「ごめんね。急に決まって」


急に決まって、とかぬかしているがアレはまたしても嘘だ。
もう何ヵ月も前から計画立ててましたみたいな表情をしている。
あれ、でもマツバがさっきバトルのイベントが急に盛り込まれたと言っていたからそうでもないのか。
それなのに、用意周到に見えるダイゴさんって一体。

「でも、こういう雰囲気はいいね。お客さんもたくさんいる」
「……げ」

改めて、ステージから周りを見渡せば人々がステージに群がるように集まっていた。
人々の中に時々見覚えのある人もちらほらと見えた。
その中にたこ焼きを食べる白マントの変態とこちらをじっと見る腐れ縁の幼なじみの姿を発見した。
変態はたこ焼きに夢中なようだが、幼なじみの方はただじっとこちらを見ている。

それが一瞬、悲しそうに見えたのは私の気のせいだろうか。

だがすぐにいつもの表情にもどり、こちらを見て鼻で笑った。口パクでまた「バカ面」と付け加えるオプション付きである。

「まだ言うか」
「?、何だい?」
「あっ、すいません。こっちの話です」

なんだか、最近こっちの話です、と言いまくっている気がするのは気のせいだろうか。
そんな全く関係ないことを考えている間に、ダイゴさんはモンスターボールをひとつ投げた。

モンスターボールから、エアームドが飛び出し、鳴き声を上げた。

「さて、そろそろいいかな?」

ダイゴさんはいつものように笑った。
ただ、その表情はいつも見せるものとは違い、挑発的で好戦的だった。
元とはいえチャンピオン。
実際、過去に一度も勝てたことのなかったナマエだからこそ、それはよく実感できた。

彼は、ポケモントレーナーなのだ。



「言っておきますけど、あれから私もちゃんとポケモンは鍛えていたんですよ」
「それは楽しみだ」

そして私もまたポケモントレーナー。

久々のバトル、しかも自分が今まで倒すことの出来なかった相手との勝負に、昔の血が騒ぐ。
覚醒しつつある、トレーナーとしての自分を感じながら、ナマエもモンスターボールをひとつ投げた。

中からは、相棒のウインディが飛び出し、ひと吠えしてエアームドと対峙した。

そして観客から歓声があがり、それが合図だったかのようにポケモンバトルはスタートした。




















「…君は、何を考えているんだい?」
「すいませんでした」

ナマエは素直に謝った。
土下座をせず謝ったのは久しぶりのことだったので妙な違和感があった。
それと同時に、土下座には慣れっこであることを改めて実感し、悲しくなった。

マツバはハァァ、と大きくため息をついてステージを見た。
このステージでは、数時間前、ダイゴさんとナマエのポケモンバトルがくり広げられていた。
ただ、数時間前と違うのはステージがバトルの激しさによりボロボロになってしまったことである。


「これ整備するのどれくらい時間がかかったと思ってるんだい?しかも地面が抉れてるし……お前が責任もって埋め立てろ」
「アイアイサー」
「ふざけているのかい?」
「いや、違う!…あ、違います違います!すいません調子に乗りました謝ります、だからそのマフラーで首をしめないでグェェ」


ギリギリと無表情で首をしめてくるマツバは本気で怖かった。
もちろん、にこやかな笑顔で首をしめられるのも怖い。
というか首をしめられるのが怖い。

「…良かったじゃないか」
「え?」
「バトルに勝てて」

マツバは相変わらずの無表情でそう言った。
本当に良かったと思ってくれているのか、その表情を見ると疑わしい。


「うん。でも、今日のポケモンバトルには3体しか使えなかったから、本当は勝てていないかもしれない」
「……ナマエにしては、控えめだな」
「控えめというか、本当にそうなの。リーグに挑戦した時は、本当に圧倒的だった。今回の3体にダイゴさんの切り札出してこなかったし。…私は出したけど」
「それは彼が自分の切り札を出したら会場がめちゃくちゃになるだろうということが分かっていたからじゃないか?ナマエと違って」
「…すいませんでした」
「別に。後処理を君が全部してくれるのならいいよ」


そう言ってマツバはハァァとまたも大きなため息をついた。
そして、ボロボロになったステージを見てポツリと呟いた。


「行くのかい?」
「え?」
「ダイゴさんに、またポケモンリーグに来いと誘われていたじゃないか」
「ああ」


ポケモンバトルが終わった後、ダイゴさんはそう言った。
そして、頑張ればチャンピオンを超えることができるかもしれないとも言ってくれた。
それはとても嬉しかったし、久しぶりにバトルをした後の高揚感もあって思わず大声で返事をしてしまった。
その後、ホウエン地方四天王、カゲツさんがダイゴさんを連れ戻しにやって来て、ダイゴさんが強制送還されたのはまた別の話である。


「そうだね…また、いつか行きたいな」
「…………」
「…マツバ?」


先程からどうも様子がおかしい。
いつもならマシンガンのように罵声を浴びせてくるような話をしているのに、やけに口数が少ない。
どうしたというのだろうか、と考える私もどうかしていると思う。友人が、罵声を浴びせてこないことに違和感を感じているなんて。

そう思っていると、考えていたことを裏切るようにマツバは早口で言ってのけた。


「行く1ヶ月前には僕に報告しろ。それであっちに行ったら毎日連絡をよこすこと。君の場合、毎日話すようなバカ話があるだろう。それくらいなら、僕も聞いてやってもいい。暇潰しくらいには。それで、リーグに挑戦し終わったら直ぐに帰って来い。お土産なんていらないよ、君にはお土産を選ぶセンスなんて無いし。真っ直ぐ帰って来い、寄り道なんてしたら君の場合迷子になりそうだ。それで帰ったら一番に僕に会いに来い。そして土下座しろ、パシリの分際で他の地方に出掛けていたことを」


これまたマシンガンのように一気に言ってくれた。
ここは傷つくところなのだが、そうはならなかった。
内容はすべて私のことを貶しているのだが、どうも本質はそこでは無いと思う。


「……ねぇ、マツバ」

「何?」


ただ、ストレートに言うとマツバが怒りそうなので、オブラートに包んでみる。



「………ツンデレ?」



包みきれず、数秒後マツバに首をしめられました。



(寂しかったのかも、しれません)
20101028