「見つけた…ノボリ!」
「また貴女ですか」
「私と勝負しろ!」
「…仕事が終わった後でもよろしければ」
「OKよ。今日こそ勝たせてもらうんだから」
ふふん、と鼻を鳴らせば双子の弟の方は慣れたことのように「ノボリ、モテモテ〜」とお弁当のタコさんウインナーをぱくりと食べた。
「それにしても、ナマエちゃんは毎日ノボリとバトルして飽きないね」
「当然でしょう。彼女、わたくしに一度も勝ったことがありませんし」
図星をつかれ、表情がひきつった。
それを見て、ノボリは珍しくクスリと笑う。
「それでは、わたくしは直ぐに仕事があるので。また後程」
いつの間にか綺麗に畳まれていたお弁当を持ち、ノボリが席を立った。
それを見て慌ててお弁当を仕舞いはじめたクダリを待ってから、ノボリとクダリは事務室の方に歩いていった。
なんだあの余裕は。
「ナマエ、あんたも飽きないわねぇ」
肩をトンと叩かれ振り向けば、同僚がお弁当を持って手をひらひらさせていた。
「飽きるも何も、負けっぱなしは嫌なの。絶対に勝ってやるんだから」
「凄い闘志ね。まぁどうでもいいから、お昼食べよう」
「どうでもいいって何、どうでもいいって」
私の話をスルーし、お弁当を開いて黙々と食べ始める同僚をじと目で見る。
私をなんだと思っているんだ、と不満を持っていたのに、いつの間にか美人だなー、なんて全く関係ないことを考えていた私は馬鹿だ。
「そもそも、なんでアンタはノボリ君にそんなに喧嘩腰なの?」
「あれ、言わなかったっけ?」
「うん。よくよく考えたら理由聞いてないわ」
「ふむ。では説明しよう」
それは、約1年前、バトルサブウェイに入社した時のことだ。
入社一日目にまず行われたのが、配属を決めるためのポケモンバトルだ。
新人はシングルトレイン、ダブルトレイン、マルチトレインに配属され、主だってそこを担当することになる。
勿論、これには駅員の業務をこなすこともプラスされる。
そこで行われた配属決めバトルで、私はなかなかの高成績を残していた。
人数が多いため、ある程度チーム分けをしてその中で総当たり戦をしていたのだが、その最後の試合の相手がノボリだった。
ノボリもチーム内で負け無し、私もチーム内で負け無しの、所謂1位決定戦のようなものだった。
結果は私の負け。今まであんなに余裕で勝ちを奪っていたのに、ノボリに惨敗したのだ。
それがとてつもなく、悔しかった。
今まで、誰かとポケモンバトルをすれば、90%の確率で勝利していた私が、こんなにあっさりとやられてしまったのだ。
それが衝撃すぎて、試合が終わった後ずっと呆然としていた。
そして、ある程度時間が経過し、私が行きついたのは、打倒ノボリという目標だった。
「それでアンタ、ノボリ君にストーカーのようにバトル挑んでたわけ?馬鹿じゃないの?」
「うるさいな。それにストーカーじゃない!」
「似たようなものでしょ。ノボリ君かわいそう」
「…というか。なんで1年も経ってるのに、このこと知らないの?」
「いや、なんかめんどくさそうだったから。適当に話から逃げてた」
「ひどくない?」
お弁当を食べ進める同僚を見て、私もお弁当を開く。
目の前の同僚のおかげで若干気落ちしたが、とりあえず今日のノボリとのバトルに備えた。
(はい、ノボリの勝ちー)
(…また負けた)
(ナマエ様、まだまだですね)
(畜生…!)
20110921