「終わるには早い」

思い切りシャッターを突き破り、ギアステーションに出てみれば、バトルサブウェイに訪れていたトレーナー達が手足を縛られている状態のまま、床に転がされていた。

先程のわたくしとクダリの一斉攻撃に恐れをなしたのか、プラズマ団員達が後退りを始めている。
身の程知らずにも程がある、ここには生半可なトレーナーはいない。


「お、おい…なんでサブウェイマスターがここに」
「足止めしていたんじゃないのかよ」
「しかも駅員達も出てきたし…」


どうする?というようにプラズマ団員が一斉に一人の団員に視線を向けた。
おそらくリーダーだろう団員を見て、少し驚いた。
彼女のことは、悪い意味で忘れられそうにない。


「…貴女様でしたか」

「ふふ…ノボリさん、ショック?」


クスクスと笑うプラズマ団員は、つい1時間程前にわたくしと一緒にいた女性だ。
ストーカーだと思っていたのだが、どうやらこういう意味でわたくしを付けていたらしい。


「ストーカーかと思っていたもので、まさかプラズマ団の方だとは微塵も思いませんでした」

「でしょう?」


これは素直な答えだ。
わたくしは、彼女をストーカーと判断し、避けていたふしがある。
それが無かったとしても、気付くことが出来たかは不安なところだ。


「それはさておき、貴女達の目的は何です?」

「ポケモンの解放よ」

「ほう…ポケモンの解放のために、他人のポケモンを盗むのですか」

「盗むのではないわ、ポケモンを手放せないトレーナーからポケモンを回収し、解放しているだけよ」

「理解しかねます」

「いいえ、私の話を聞けばきっと分かるはずよ」

「それ以前の問題です」


そう、話を聞く以前の問題だ。
ギアステーションに訪れたお客様方を拘束し、ポケモンを奪うなど。
もはやこれだけで許されざる行為である。


カツリ、と一歩踏み出せば、プラズマ団員達は数歩後ずさった。
それもそのはず、現在バトルサブウェイのトレーナーが全集結し、皆全ての手持ちポケモンを外に出している。
相当な迫力であることは、プラズマ団員の顔色から伺えた。
同時にだんだんと近付いてくるパトカーの音にも気付いたのか、顔色がどんどん悪くなっていく。


「もうすぐ警察が来るよ、どうする?」


クダリが口を開くと、プラズマ団員達は一斉にリーダーの方へ視線を移動させた。
リーダーである彼女は、若干の笑みを浮かべるが顔は笑っていなかった。


「…逃がしてくれそうにないわね」

「条件を飲めば、見逃してさしあげないこともありませんよ」

そう言えば、床に転がされていたお客様方がざわついたが、悟られぬように冷静なふりをする。
プラズマ団の誰かが、お客様のひとりを人質にしようとする前に、プラズマ団を追い払わなければならない。
お客様は皆、手足を縛られ自由がきかない状態なので、逃げることもできない。


「たった今回収した全てのポケモンを置いて、即刻ここから立ち去りなさい」


「…そうね、このまま人質を取っても上手くいきそうにないし」


こちらの考えが読まれているのも分かっている。
しかし、彼女も馬鹿ではないだろう。
このままここに居続けることが、得策かどうかくらいの判断はつくはずだ。


「分かったわ、条件を飲みましょう」



回収した袋を置くように団員に指示を出すと、袋を持っていた団員はゆっくりとそれを置いた。
そして、何かのアイコンタクトがなされた後、団員全員が一斉にけむり玉を投げた。
逃げる時に何かするとは思っていたが、まさかこんな古典的なことをしでかすとは。

咳き込む音とバタバタと走り去る音を聞き、プラズマ団員達がギアステーションの階段をかけ上がったことを確認した後、クダリを含め飛行タイプのポケモンを所持したトレーナー達が指示を出し、一斉にけむりを吹き飛ばす。

「お客様は!?」

「おそらく全員無事です!」

「分かりました。ではプラズマ団の後を追ってください!」



了解しました、と応答しギアステーション勤務のトレーナー達が次々に外へ出ていった。
これでお客様の身の危険は回避できた、後は逃げていった奴らを捕まえるだけだ。

そう気を抜いた時だった。
ちょうどわたくしの近くに転がされていたモリ様の縄を解こうとした際、モリ様が予想もしなかったことを口にした。




「ノボリさん!ナマエちゃんが…さっきの奴らに連れて行かれたままなの!」




20120110