「助けてください」

目を覚ました時には、腕と足を縛られた状態のまま、ギアステーションに転がされていた。
モリさんを含め、周りにいたトレーナー達も同じような状態で転がっている。
そして、転がっているトレーナー達の合間を縫うように歩き回っている人達が多数。
全員てるてる坊主のような変わった出で立ちをしている。
何かの団体だろうか、正体は分からないが、とりあえず私達を縛りあげたのは奴らだということは分かる。
何の目的で、何故こんなことをするのか、どちらにしてもあまり良いことではなさそうだ。
とりあえず目を瞑り、意識を失っているふりをして周りの会話に耳をすませる。

「おい、袋貸せ」

「ほらよ」

「誘導も上手くいったみたいだな」

「よし」

「リーダー、各トレイン乗り場入り口の閉鎖を完了しました」

「ご苦労様。サブウェイマスターも電車の中に閉じ込めてあるし、さっさと任務を始めちゃいましょう」

「はっ」


任務開始!という言葉と共に、てるてる坊主の集団が一斉にバタバタと走り始める。
何だ?と思いつつ、うっすら目を開くと、倒れているトレーナー達からモンスターボールを探し出し、回収している。
私の他にも、意識を取り戻していた人がいたのか、モンスターボールを返せと叫んでいるトレーナーもいた。

この人達はポケモンを盗みに来たようだ。
確かに、ここバトルサブウェイには選りすぐりのトレーナーが終結しており、ポケモンのレベルも相当なものだ。
盗むにしても、申し分ない。


悔しく思いながらも、これからどうするべきか考える。
何か逃げる…というか、解決方法はないだろうか。

ギアステーションにいるトレーナー達は身動きが取れない。
それに先程聞こえた、サブウェイマスターは電車に閉じ込めたという発言。
どういうことなのだろう、ふたりは無事なのだろうか。
こんなことになった時、まずはじめにサブウェイマスターの2人を頼りたいのに、それが出来ない。
そういえば、他の駅員さん達はどこにいるんだろう。この事態に気付いているのだろうか。


そう悶々と考えていると、カツリという足音が耳元で聞こえた。
人がどんどん近づいてくる気配を感じ、体が固まる。
どうやら私の番が来てしまったらしい。

折角、先程まで比較的冷静に考えられていたのに、一瞬にして頭が真っ白になる。
どうしようどうしようどうしよう!と半ばパニック状態になり、伸びてきた手が、私の腰にあるモンスターボールに触れた瞬間、やけになって行動を起こした。


「せ、セクハラあああ!」


私のモンスターボールの回収に来た、てるてる坊主がびくついた。
思い切り体を捻って、転がるように体当たりをすれば、モンスターボールを回収に来たであろう団員が転んだ。
ざまぁみろ、と思いつつ、団員の転んだ先にいるモリさんの存在に気付いた時には、すでに手遅れだった。
ぐえっ、という2つのくぐもった声と鈍い音が響いた時、私が体を回転させたせいで腰につけていたモンスターボールが転がり、中からポケモンが出てきてしまった。
一瞬、真っ白になった思考が色づき、チャンスとばかりに指示を飛ばした。


「カイリュー、破壊光線!」

ボールから出た瞬間、カイリューは間髪入れず破壊光線を発射した。
てるてる坊主集団の人たちや、床に転がっていたトレーナーたちまで悲鳴をあげた。
トレーナーの人たちには申し訳ないが、てるてる坊主にはざまぁ見ろだ。
よし、と若干得意げになっていたところに、私のカイリューに一斉にポケモン達が飛びかかってくる。
カイリューが破壊光線をうった反動で動けないことをいいことに、ほぼ袋叩き状態になっている。

「カイリュー!」

くそ、と思いつつもうひとつのモンスターボールを先ほどと同じ要領で腰から外し、ピカチュウを出す。
ピカチュウは、くああと欠伸をしてから舌打ちした。
面倒くさいからといってこの状況でその反応はあんまりだと思う。


「ピカチュウ、カイリューの援護!」

「………」

「だああああ!緊急事態なの!今度ケーキ買ってくるから!」

「ぴかぴ」

ピカチュウは、仕方ねぇなぁ、という顔でカイリューの元へ走って行った。
反動で動けないカイリューに攻撃してくるポケモンに電磁波を浴びせ、動けなくしているところを見るとなかなか賢いポケモンだと思う。
私より頭いいんじゃないだろうか。

「おい、援護頼む!」

「任せろ」


ポンポンとボールを投げ、どんどん敵方のポケモンが増えていく。
反動から抜けきったカイリューも、そこそこ耐久力はあるがこのままではきつい。
どうしよう、と思ったところへ、床に転がされているトレーナーの誰かが叫んだ。


「おい、サブウェイマスターを呼んでこい!駅員でもいいから!」


その発言に、戦闘中であるカイリューが、ちらりとこちらに振り返る。
確かに、このままではこちらが力尽きるのは目に見えている。
その前に、こちらも援軍を呼んで対処した方がいいだろう。

それに、各トレイン乗り場のシャッターが閉まっていること、駅員の姿が見えないことが気になる。


「カイリュー!マルチトレイン乗り場にノボリさん達がいるはずだから、呼んできて!」


恐らく、動ける駅員はシャッターの向こうだ。
この事態に気付いているのかいないのかは分からないが、とりあえず助けが欲しい。

カイリューは、了解したと頷いてマルチトレイン入り口のシャッターに突っ込んで行った。

それに、ふぅ、と息をついて安心した時、耳元でカツリという靴音が聞こえた。


「てめぇ、よくもやってくれたな」

思い切り髪を捕まれ、顔を上げさせられたので頭皮が破れるのではというくらい痛かった。


「おとなしくしていればいいものを」

「いだだだだだだ!」


助けて、と残っていたピカチュウに声をかければ、ピカチュウは急に顔色を悪くして倒れた。
大丈夫!?と言いたいところだが、あれは演技だ。
こちらに分が悪いと踏んで逃げやがったなあの野郎!


「ちょ、ピカチュウ!裏切り者!」

「お前、ちょっと来い」



20111130