「いいんですかコレ」

以前、トウヤ君とトウコちゃんがノボリさんとクダリさんに挑戦しに来た日から、久しぶりに私もポケモンバトルがしたいと思った。


「…おはようございます、ナマエ様。ここで何を?」

「おはようございます、ノボリさん。バトルサブウェイに挑戦しようと思って」


今日はお弁当販売の仕事は休みだ。
折角時間があるのだから、このバトルサブウェイに挑戦しに来たのだ。
前々からここでバトルをしてみたいと思っていたことと、先程言ったトウヤ君とトウコちゃんの影響である。



「ほう…。それでは是非、シングルトレインにご乗車くださいまし」

「いやぁ…それが…」

「…なんでしょう?」

「シングルトレインにはポケモン3体、ダブルトレインにはポケモン4体必要なんですよね?」

「そうですが」

「私…ポケモン2匹しか持っていないという事実にさっき気が付きました」

「……………」



ノボリさんの何とも言え無い表情に苦笑いするしかなかった。
そもそも、ジョウトから連れてきたポケモンは2匹だけで、イッシュでの生活に慣れたら新たに捕まえようと考えていた。
今日捕まえに出掛ければよかったんだ、と今更気付いた。


「マルチトレインはいかがです?一緒に戦ってくれるトレーナーさえ見つかれば、ポケモンは2匹でも大丈夫ですよ」

「勿論、探しましたよ。でも今の時間トレーナーさんが全く居なくて」

「確かにそうですね…」



折角、弁当販売員(in バトルサブウェイ)として働いているのだから、せめてバトル形式を調べておくんだった。
しかも隣の部屋にはこの施設のボスが2人も住んでいるので、いつでもバトルサブウェイのことは何でも聞ける状況だったのに。

くっ、と唇を噛むと、私の肩にノボリさんの手がポンと乗った。


「ナマエ様、わたくしに良い考えがございます」












これは……いいのだろうか。
いや、良くないよなぁ。


とりあえず、マルチトレインに乗り込み、1両目のドアを開けた。
挑戦者が空いているためか、1両目で待機していたトレーナー二人が座席からのっそりと立ち上がった。
そしてこちらを見るや否や、二人のトレーナーは固まった。


それもそのはず、私と一緒に車両に乗り込んだのは、ノボリさんだ。


「ボス!?なんでここに…」

「抜き打ちバトルです。あなた方のバトルの腕がどれ程上がったのか、テスト致します」


そう言ってノボリさんはモンスターボールを取りだした。
今、しれっとバトルのテストをしに来たと最もらしい理由を述べたが、これは全てノボリさんが後付けで考えた理由だ。
丁度仕事も片付き、挑戦者もいないので自分がペアとして参加すると言ったノボリさんが、周りを納得させるための言い訳だ。
若干乗り気ではあったが、元は私がポケモンを2匹しか持っていないためにこんなことをしてもらったようなものだ。
本当に申し訳ない。

相手のトレーナーも、まさかサブウェイマスターが挑戦者側で登場するとは夢にも思わなかったようで、若干狼狽えている。


「そんな…ボスに勝てるわけないじゃないか」


「それは分かりませんよ。
ダブルバトルとは、お互いのコンビネーションがぴったり合わなければ勝つことはできません。わたくしと彼女が組んでポケモンバトルをするのはこれが初めてです。いくらわたくしであろうと、この状況であなた方に余裕で勝つというのは難しいでしょう」


余裕で勝つことはできなくても、勝つことは出来るのか。
凄い自信だなぁ、と思うと同時に、あのノボリさんがそこまで言えるほどの実力者であることが分かった。


「ではもうひとつ、わたくし達に勝つことが出来れば、ボーナスを考えてあげなくもないですよ」


ボーナス、という言葉にトレーナー二人はぴくりと反応した。
その様子を確認すると、ニヤリとノボリさんが不敵に笑った。
そして、ボソリと「かかりましたね」呟いたのを私は聞き逃さなかった。


「よっしゃああ!ボス勝負です!」
「本気でいきます!」


「当然です」


そう言うや否や、3人共モンスターボールをフィールドに投げた。
これ私空気じゃない?




この後、ほぼノボリさんのゴリ押しで7連勝し、車両に乗っていたトレーナー達全員がいろいろな意味でボロボロになった。


(ノボリさんって、バトルになると顔付き変わりますね)
(そうですか?)
(ええ、それにかなり好戦的でしたし。かっこよかったです)
(そ…そうですか)

20110903