スッと軽く買い物袋を差し出してくるが、買い物袋にはたくさんの食材からお菓子までが入っており、かなり重そうである。
恐る恐る買い物袋を受けとるが、やはり想像以上に重くて、袋を落としてしまった。
しかも足に直撃である、痛い。
「折れた!」
「それはお気の毒に」
私が夕飯の準備をするかわりに、ノボリさんが1週間分の材料を買ってきてくれることは、ほぼ日課になっていた。
日課になるほどやりとりをして気付いたが、ノボリさんはやや辛辣だ。
ノボリさんもノボリさんで慣れたのか、私の冗談をツッコミもせず流すようになった。
どちらも、お互いに慣れた証拠だ。
「ノボリさん、タッパーに詰めるのめんどくさいんで食べていってください」
「わかりました。それでは、お邪魔いたします」
このやり取りも、最初はノボリさんは家に上がるのを渋っていたが、慣れてしまったのか素直に家に上がるようになった。
そして、これも恒例の景色になりつつある。
「ピカ!」
「こんばんは、ピカチュウ」
ノボリさんに、私のピカチュウが飛びついた。
嬉しそうにノボリさんの肩に上り頬をすり寄せたと思ったら、瞬間帽子を奪い、リビングのソファーの上に逃走した。
そしてニヤリと笑い、ピカチュウにしてはぶかぶかな帽子をかぶる。
「……相変わらずですね」
「ノボリさんの帽子気に入ってるんですよ。それどこで買えます?」
「これは仕事の制服の一部です。どこにも販売していません」
あなたもあなたのピカチュウにも呆れます、と言ってノボリさんはソファーにゆっくりと腰掛けた。
帽子をかぶったまま、ピカチュウはケタケタ笑いながらテレビが置いてある場所へ走っていく。
先に説明しておこう、私のピカチュウは少々やんちゃである。
私があのピカチュウを捕まえるまで、森のボス的存在で君臨し、近所の人からワイルドピカチュウなどという通り名までつけられていた。
そこに偶然、私が間違って落としたボールが、足下を横切ろうとしたピカチュウに命中し、ゲットに至る。
最初は全然なついてくれなくて苦戦はしたが、今ではそれなりになついてくれている…はず。
ただ、なついても性格が変わるはずもなく、気に入ってものは何でも自分のものにしようとする。
今は、ノボリさんの帽子がターゲットらしい。
「そういえば、ナマエ様はピカチュウ以外にもポケモンをお持ちなのですか?」
「ああ、あと1匹いますよ。体が大きいから、あまり部屋の中で出せませんけど」
「ほう…それは、気になりますね」
「気が向いたらお見せしますよ」
「……今見せてはくれないのですか」
なんだか、がっかりしたような目で見られたが、気にしない。
別に見られたくないわけではないが、見せるのも面倒だ。
「はいノボリさん、今日はオムライスでーす」
「…なんです、このケチャップの文字は」
ノボリさんに手渡したオムライスには、『ノボリくんおつかれ』とケチャップで書いてある。
「オムライスの醍醐味といえば、これでしょう!」
「少々恥ずかしいんですが」
「文句ありますか」
「いえ、頂きます」
黙々とオムライスを食べ始めたノボリさんを確認し、更に添え物のおかずを机に並べる。
おかずを置くごとに律儀にお礼を言うノボリさんの性格も、なんとなく分かってきた。
「ノボリさんって意外に食べますよね」
「そうですね。どちらかというと食べる分類に入ります……。クダリの方は全く食べませんが」
「えっ、それも意外」
「クダリの場合は定期的におやつを食べているので、食事が入らないんです」
「…クダリさんらしいですね」
そう会話しているうちに、ノボリさんはオムライスを平らげてしまった。
おかわりどうですか?と聞けば、お願いします、とノボリさんは頷いた。
20110820