「なんとかなりました」

ノボリさんに連れられて、初めてバトルサブウェイを訪れた。
仕事を紹介してくれる、というのできっちりスーツを着込んできたのだが、なんだか場違いな気がする。
ギアステーション、というところを歩いているのだが、ここにいるのは当然ながらポケモントレーナーばかり。
みんなそれなりに動きやすく、ラフな格好でいるのに対し、私はガチガチのスーツだ。
それに、ノボリさんは皆の目を引くので、それに追い討ちをかけるように私にも視線が注がれる。
正直、かなり恥ずかしい。


「ノボリさん、紹介してくれる仕事って何ですか?」

「行けば分かります」


そう言って黒いコートを羽織り、帽子を被ったノボリさんが淡々と話す。
その姿がなかなか様になっていて、思わず見とれた。
制服姿を見たのは初めてでは無いのに、やはり仕事場に来ると余計にかっこよく見える。
これが出来る男の力か。

しかし、紹介してくれる仕事が鉄道関係では無いと言っていたはずだが、ここに来るのは何故だろう。
ここはどう見ても、鉄道にしか見えないのだけど。


不安になりつつ、ノボリさんに付いて歩いていると、ピタリとノボリさんが立ち止まった。


「おはようございます、モリ様」

「あら、クダリさん。おはようございます」

「ノボリです」

「あらま!失礼しました、ノボリさん」


あはは、と笑いながらノボリさんに謝っているのは、見る限り弁当屋のおばちゃんだ。
折り畳み式の机を2つ広げ、その上にはいろいろな種類のお弁当がズラリと並んでいる。
お弁当のパックには、「お弁当もりもり亭」とプリントされたシールが貼ってある。

モリさんだから、もりもり亭なのだろうか。



「モリ様、以前弁当屋にアルバイトが欲しいと仰っていましたよね?」

「そうだったかしら?」

「ええ、売れ行きがいいので忙しい、と仰られていました」

「そうねぇ、確かに忙しいけど…」



なんとなく、話の流れで読めてしまった。
私に紹介したい仕事って、



「わたくしから、彼女をモリ様のお手伝いに推薦したいのですが、どうでしょうか?」

「え?」


パッと、モリさんがこちらを見た。
私をまじまじと頭から足の先まで見て、ノボリさんの方を見た。


「あらやだ、ノボリさん!もしかして、彼女〜?」

ニタァと笑ったモリさんに対し、ノボリさんは無表情で「違います」と答えた。


「彼女はつい先日ジョウトに引っ越してきたばかりで、仕事先を探しているようなのです。
彼女は料理も出来ますし、近所に住んでいるので、いつでもお手伝いは可能かと」

「そう?
そりゃあ、手伝ってくれれば助かるけど……」


そして、もう一度モリさんはこちらを見た。
気持ち背筋をピンと伸ばし、姿勢を整える。


「そうねぇ…。イッシュに来たばかりじゃ、不安でしょうねぇ」

モリさんは、うーんと唸ってから、ニッコリと笑った。


「うちで働いてみるかい?」

「はいっ、よろしくお願いします!」


深々と頭を下げたら、モリさんは笑顔で、こちらこそよろしくね、と言ってくれた。
嬉しくてノボリさんにもお礼を言えば、ノボリさんも笑ってくれた気がした。



「ニートは許しませんからね」

「あ……はい」


あれ、やっぱり笑ってなかったかも。


20110429