ダイゴが深刻そうな顔でそう言った。
今はちょうど昼の3時。
ダイゴも珍しく仕事が休みだったので、二人で紅茶を飲みながらクッキーをつまんでいるところだった。
そんな穏やかな時間に、ふいに見せたダイゴの悲しそうな表情に、何事かと不安になった。
ダイゴと付き合いはじめて、ちょうど1週間がたった。
あれから私はシンオウには帰らず、以前のままダイゴの家にお世話になっている。
この1週間は、まさに幸せの絶頂だった。
朝起きれば、隣にはダイゴが眠っている。
ダイゴが起きるまで、彼の寝顔をじっと見て、ダイゴが目を覚ましたら、最初におはようと言う。
するとすぐに柔らかい声でおはよう、と言って頭を撫でてくれる。
二人で起床して、私は朝ごはんを作り、ダイゴは身支度を整える。
ダイゴを送り出して、それから家事や掃除をする。
そして夕方には夕飯を作って、ダイゴの帰りを待つ。
帰ってきたダイゴに夕飯かお風呂かを聞いて、もうひとつの選択肢は?と聞いてくるのを軽くあしらう。
夜は二人でリビングで話をして、それから二人で同じベッドで眠る。
時々寝かせてもらえないけど、朝起きた時、幸福感に満たされる。
こんなにも幸せ過ぎていいのだろうかと思っていたくらいだ。
それもついに、幕を閉じるのか。
ゴクリ、と息を飲んでダイゴを見た。
ダイゴは言いにくそうにしていたが、重たい口を開いた。
「実は、すぐに結婚できなくなった」
「…え?」
「僕が婚約解消した日に、君との船でのやり取りが放映されただろう?
あれではいくらなんでも不謹慎だし、元婚約者に悪いし、けじめをつけることと反省をこめて……すぐには結婚を許してもらえなくなったんだ」
しゅんとするダイゴが、不謹慎だが捨てられた子犬のように見えて可愛かった。
「なんだ、そんなこと」
「そんなことじゃないよ!」
バンと机を叩いて声を上げたダイゴを見たら、やはり捨てられた子犬のようだった。
何をそんなに落ち込んでいるのだろう。
「僕は…今すぐにでも結婚したいくらいなのに」
「でも、許してもらえないんでしょ?」
「そうなんだ。それに…僕も反省はしているんだ。あの時は嬉し過ぎて、後のことを深く考えられていなかった」
ダイゴは俯いて、ごめん、と呟いた。
「…そんなに落ち込まないでよ」
「……ナマエは、嫌じゃないの?」
「まあ、そんなに」
「え!?」
ガーン、という効果音が聞こえてくるのでは無いかという程、ダイゴの顔色がみるみる悪くなっていった。
そして本格的に落ち込みはじめたダイゴに、本音を言う。
「結婚とか、そういうのはいつでもいいよ。ダイゴと一緒なら、それでいい」
「…本当に?」
「本当」
やっと顔を上げたダイゴの表情が、少し明るくなった。
可愛いなぁ、と思いつつ、クッキーをかじった。
「それに、私がこの家にいる時点で生活は夫婦みたいなものじゃない」
「まぁ…そうだけど」
「でしょ?
あと…夫婦もいいけど、恋人っていうのも体験したいと思わない?」
「…そうだね」
ダイゴはニッコリと笑ってソファーを立った。
そのまま歩いてこちらに来たかと思ったら、飛び付くように抱きしめられた。
ダイゴの体重を支えきれず、ソファーに二人して倒れこむ。
「ダイゴ、重い……」
「はは、慣れてるだろう?」
「もう………」
あれから1週間が過ぎました。
私達は、現在進行形でシアワセです。
20110403