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正直、忘れられていると思った。

だから、そんなに彼女のことは思い出さ無かったし、お見合いの話も進めた。

彼女が帰って来たのは、僕がホウエンリーグのチャンピオンになって、すぐの事だった。


「そういえばダイゴ」
「何?」
「おめでとう」
「……え?」
「チャンピオンになったんでしょ?」
「ああ」
「ああ、って……。良かったじゃない、長年の夢が叶って。すごいじゃない」
「…そうかな?」


彼女に、すごい、と言われただけで、なんだかむず痒くなった。なんだろう、凄く照れる。


「あ、照れてる」
「…言うなよ」
「あはは、かわいいなーダイゴも」


久しぶりに会った彼女は、昔の面影をそのままに、少し大人びていた。
伸びた髪がサラリと揺れる毎に、それを目が追ってしまう。
彼女の一言一言に翻弄される。
しかし、どこか心地よくて、安心できた。



自分の中に眠っていた、5年越しの感情が掘り起こされる。


婚約者がいるのに、彼女を自分の家に招き入れた。
良くないと分かっていたはずなのに、彼女と話していたいと思った。
毎日毎日、同じ家で同じ時を過ごすのは、とても楽しかった。

暫くその居心地の良さに浸っていた、そして、ケジメをつけようと思った。









その結果が、これだ。







「……ナマエ?」


家に帰ったのは、夕方前くらいだった。
鍵穴に鍵をさすと、手応えが無かった。
不思議に思ってドアノブを回すと、ガチャリとドアが開いた。
鍵がかかっていなかったことを不審に思いながら、家に上がり、リビングへ行くがナマエはいなかった。
リビングのカーペットの上に、ナマエのチルタリスの羽だけが落ちていた。
二階に上がって、ナマエの部屋をノックするが応答は無い。
部屋のドアを開けると、妙にこざっぱりした部屋だけがあった。
ナマエの私物と、彼女がシンオウから来た時に下げていたカバンが無いことに気付き、慌てて玄関へと走る。
彼女の靴は、無い。


ここでやっと、ナマエがシンオウへ帰ると言っていたことを思い出した。



「…くそっ、」



まだ間に合うだろうか。
慌てて靴を履き直し、腰のボールを掴んでエアームドを出す。
視界の端に、彼女に渡したこの家の合鍵が写った。
それをひっつかみ、荒々しく家のドアを閉め、エアームドに飛び乗った。




20110307