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小さい頃の私は、まだ可愛げのある女の子だった、とダイゴに言われたことがある。
確かに、昔はそれはそれは素直な子だったと自分でも自覚している。
自分がダイゴに好意を持ち始めた時期から可愛げが無くなったのではないか、と今になって思う。


今更、可愛くなんてなれない。


「はい、スーツ」

「ありがとう」

「……珍しいね、昼から出勤なのに、今日は洞窟行かなかったんだ?」


これは嫌味だ。
一瞬固まったダイゴは、これが嫌味であることには気付いていないだろう。
以前、スーツを着て石探しに行くのはそのまま直接仕事へ行くことが出来るから、と言っていたのは誰だったか。


「今日はちょっと眠くてね」


何事も無かったかのようにそう言うダイゴに、きゅう、と胸が締め付けられた。
ああ、なんて痛いんだろう。

ダイゴが綺麗なスーツを着て、出勤という名目で向かうのは彼のお見合い相手のところだ。

嘘をつかれている、ということに気付かないふりをするのは、こんなに苦しいことなんだ。

思わず唇を噛みしめたら、ダイゴがどうしたの?と心配そうに顔を覗き込んできた。
何でもない、と首を振ろうとしたが、思うように体が動かなかった。


「体調でも悪いの…?」

「ダイゴ、私、」




一瞬迷って、そして私は逃げた。



「シンオウに帰ろうと思うの」
「…え?」



ダイゴは訳が分からない、という風に首を傾げた。
確かにそうだ、なぜ今このタイミングでそんな事を言うのか、自分でも理解出来ない。

ダイゴはじっとこちらを見ていたが、ややあって「いつ?」と聞いてきた。
そう質問してくるということは、少なからず私はダイゴに迷惑をかけていたんだと実感した。
追い討ちをかけるように、涙腺が弛みそうになる。



「もう少ししたら」

「……そうか」



頷いて、ダイゴはやはり私をじっと見る。
ダイゴのその目がふいに揺れたような気がしたが、すぐに彼は「じゃあ、行ってくるね」と言って家を出て行った。


ダイゴにとって、私はそれだけでしかなかったのだ。


廊下を走り、リビングにいたチルタリスに抱き着いて、子供のように声をあげて泣いた。


私から可愛げが無くなろうが、時が経とうが、ダイゴのことを好きな気持ちは変わらなかった。

それどころか、無駄な単純さすら変わっていない。

本当にダイゴのお嫁さんにしてもらえる、となんとも子供の夢のような期待を未だに持っていた自分に腹がたつ。


ひとしきり泣いたら、すでに1時間ほど時間が経過していた。
ダイゴは今頃どうしているだろうか、とぼんやりと考えたが、ハッとして頭を振った。
アイツのことは、もう考えてはいけない。



悲しくて悔しくて苦しくて、腹がたった。

勢いのまま、急いで荷物をまとめ、ダイゴの家を飛び出した。





(馬鹿な奴だと、笑えばいい)


20110307