08

ダイゴは、翌日の夕方に帰宅した。
仕事はとりあえず片付いたらしく、家に帰って風呂に入るなり、すぐに寝室のベッドに倒れるように寝てしまった。
布団をかけてもピクリとも動かないところを見ると、かなり疲れていたようだ。

「お疲れ様……」


ダイゴの髪をさらりと撫で、髪の質感に驚いた。
なんてサラサラした髪なんだろう。
もう一度、今度は指で梳いてみる。
暗い部屋の中で、鈍く銀色に光る髪は、サラリと指の間を通り抜けていく。
男のくせに、綺麗な髪をしている。


ダイゴは相変わらずピクリとも動かない。
死んでいるんじゃないだろうか、と疑いたくなるほどに。
次は頬をつついて見た。
ふに、と柔らかい感触がした。
それと同時に、少しザラついた肌の感触。
疲労からか、少し肌が荒れているように思う。

そして次に、少し開いた唇に目がついた。
無意識のうちにその唇に触れようとして、ハッと我に返った。
何をしているんだ、私は。
まるで寝込みを襲っているようだ、と頭をかかえた。


「あああ……」

奇声を発して、どうにか恥ずかしさを誤魔化そうとしたが、上手くはいかなかった。

そして、視界の端で未だにダイゴの唇を見ていることに、我ながらなんてスケベなんだと思った。


「…………」


じっとダイゴを見つめ、試しに少しだけ顔を近づけてみた。
やはり、ダイゴはピクリとも動かない。

ゴクリ、と唾を飲んだ音が部屋中に響いた。


そして、恐る恐るダイゴに顔を近付け、ゆっくりと唇を重ねた。
音も無く離れたそれは、とても熱くて、その感触を忘れられそうにない。

ほう、と息をついて自分の唇に触れる。


「…やっちゃった」


お茶らけた風に言ってみたが、ダイゴはやはりピクリとも動かなかった。


そして、ふとベッドの足元に置かれた紙袋に目がついた。
今日ダイゴが帰ってきた時に、彼が下げていた物だ。
その真っ白な紙袋から、なにやら分厚いパンフレットのようなものが覗いていた。
二つ折りのそれに見覚えがあるが、そうだとは信じたくなかった。

恐る恐る、紙袋からそれを抜き取った。
ダイゴは寝ているのに、勝手に彼の物を見るのはいけないことだと分かってはいたが、先程キスをしてしまったことでその概念はどこかへ行ってしまった。
ゆっくり、それを開くと、案の定写真があった。
綺麗な着物に身を包み、こちらに笑いかける女の人も、綺麗だった。

そして、このお見合い写真の間に挟まれていた封筒を見て、泣きたくなった。


宛先には、知らない女性の名前が書いてあった。

差出人は、眠り続けるこの男。


20110225