05

ダイゴの家にお世話になり始めてから、一週間が過ぎた。

ダイゴは仕事がなさそうで実はあるようで、朝出勤が早ければ夜の帰りが遅い。
しかし、仕事がない日は朝の起床がかなり遅い。
そして遅い起床の後は、すぐに石探しに洞窟へ出掛けていく。
これもまた帰りが遅く、もれなく着ているスーツが砂まみれというオプションがついてくる。
何でスーツで洞窟へ行くんだ、と言ったら、洞窟帰りに直接仕事場に行けるようスーツを着ているらしい。
そんなに石探しが好きなのか、昔のから石に対する熱意が格段にレベルアップしていて驚いた。

ダイゴも相変わらずである。


「まーた汚してる……」

「ははは、ごめん」


にこにこと笑いながら謝るダイゴは、反省している風には全く見えない。
嫌味のつもりで盛大にため息をついたらオロオロしはじめた。
……ちょっと面白いかも。


「もう夕飯できてるよ」

「ありがとう」


ダイゴの家に住まわせてもらう交換条件として、家の家事はすべて私が担っている。
何もしないのは流石によくない、とダイゴには言ってあるが、本当の理由は別にある。

私がシンオウにいる間、どれほど特訓をしたと思っているのか。


「それにしても、ナマエも随分成長したね。昔は料理なんて全く出来なかったのに」

「ふふん、私をそんなに甘く見ないで」

「懐かしいなぁ。味噌の入ってない味噌汁」

「…そ、そんなことあったかしら?」

「何で味噌汁の色が薄いのか、って君が聞いてきた時には唖然としたね。正直本当に女の子なのか疑ったよ」

「ひどくない?」


あはは、とダイゴは笑いながら靴を脱いだ。
そこで玄関で喋りっぱなしであったことに気づいた。

「ご飯にする?お風呂にする?それとも、」

「ご飯」


冗談で言ったつもりだったのだが、その冗談すら遮られてしまった。
さっさと家にあがり、スタスタと廊下を歩いていくダイゴの背中を見て呆然とした。

そんなに嫌だったのか、と若干落ち込んでいると、ピタリとダイゴの足が止まった。
その肩は、フルフルとふるえている。


「……ダイゴ」

「くっ、ははは…」



ダイゴは背中を少し丸めて笑いだした。
からかわれた、という事実に気付いて恥ずかしくなった。
照れくささを誤魔化すために、ダイゴの背中をパシンと平手で叩いたが、ダイゴは笑い続けるばかりだった。


20110224

休日、昼が過ぎるというのにダイゴはまだ布団に入ったままだ。
そろそろ起こすか、と二階のダイゴの寝室に入り、布団をひっぺがす。
瞬間、ダイゴは布団を掴んだ。

「起きてたんだ…」

「寒い」


私の手から布団を奪い、頭から布団を被った。
なんだか子供みたいで可愛い、と思ったがすぐにその思考を追い出した。


「ねぇ、もう昼よ。起きなよ」

「ええ〜…」

「ええ〜、じゃない!」


布団を引っ張るが、渾身の力で布団を握っているため、引き剥がせない。
暫く攻防を続けるが、状況は全く変わらない。
諦めるのは、いつも私だ。


「ったく。昔と全く変わってない」

「ナマエが僕を起こしに来て諦めるのも、昔と変わらない」

クスクスと笑うダイゴは、きっと目は覚めているのだ。
だとしたら、この状況を楽しんでいるのだ。
ダイゴも、懐かしさに浸りたいのだろうか。
とくり、と心臓が動いた。



「私達、全く変わってないんだね」

「それは無いよ」



浮上した気持ちが一気に打ち落とされた。



「5年経ったんだ。変わらないわけがない。まぁ、変わらないものがあるのも当然なんだけど」


むくり、と起き上がったダイゴは、私を見ていなかった。
どこか遠くを見て、ポツリと呟いた。



「ナマエは、変わったね」



こちらを見て笑ったダイゴのその表情は、どこか痛々しかった。


嘘よ、変わったのは、貴方の方でしょう?
貴方は、そんな風に笑う人では無かった。



(何かが、すれ違っていく)

20110226