幼馴染みは俺様意地悪ドS!

私には、世間一般的にすばらしい幼馴染みがいる。
頭脳明晰、眉目秀麗、文武両道。
これくらい言っても過言では無いくらい、私の幼馴染みはすばらしい奴である。
しかし、奴には裏の顔があり、幼馴染みの私は奴の裏の顔…ブラックモードしか見たことが無いのだ。
簡単に言うと、私と、もうひとりいる奴の友人以外には、猫を被っているのた。
私は奴の猫を被りモードの事を、営業用と呼んでいる。

そんな幼馴染み、マツバは、一応私の彼氏である。


「何してるのナマエ」

「………」


ギロ、とマツバを睨み付けるが、マツバには効いていないのか、鼻で笑われた。
マツバの手には弓、肩には矢を入れる筒を下げている。
試合があるらしく、今日はそれらの道具を持って帰るらしい。
マツバは弓道部で、期待のエースである。
それに反して、私はテニス部の補欠メンバーである。



「今日、一緒に帰ろうって言ったじゃない」

「そうだっけ」

「そうだよ、だから待ってたの」


覚えているくせに、マツバはとぼけたような態度をとる。
そうやって私をからかっているのは分かっていたから、そのまま無言で校門を出た。


「マツバ先輩、お疲れ様でした」

「お疲れ様」

「マツバ先輩、明日は頑張ってくださいね!」

「ああ、君達も頑張ってね」

「はい!また明日、マツバ先輩」

「また明日」


後方からそんなやり取りが聞こえた。
まあ後輩から人気のある事で。
しかも皆女の子である。
ダイゴ先生からの情報によると、マツバ目当てで弓道部に入部した生徒が結構いるとか、いないとか。
理由が不純だ!と言いたいが、私も最初はマツバと一緒に入部しようかと考えていた人間なので、あまり偉そうには言えない。


落ち込みつつ、とぼとぼと歩いていると誰かにぶつかった。
顔を上げれば、受験のため引退したテニス部の部長だったヒイラギ先輩がいた。


「す、すいません!」
「あれ、ナマエちゃん。久しぶり」
「お久しぶりです先輩」
「どうしたの?元気なさそうだね」
「いや、ははは。何でもないです」
「…そう?」


ヒイラギ先輩が、心配そうに私にたずねてくれた事に感動した。
なんていい先輩なんだ。
私の後ろで後輩に囲まれてキャーキャー言われている幼馴染みとは大違いだ。
感動の余韻に浸っていると、突然腕を捕まれた。
そしてそのまま思い切りひっぱられ、転びそうになった。
こんな手荒な扱いをするのは、後ろにいたマツバに他ならない。


「ナマエ、帰るぞ」

「…さっきと言ってる事、違うんだけど」

「知らない」


ツン、とそっぽを向いたマツバに呆れつつ、ヒイラギ先輩に頭を下げて帰路につく。
始終マツバが無言だったため、ものすごく気まずかった。

私とマツバの家は、隣同士である。
まるでマンガみたいな展開ではあるが、残念ながらお互いの部屋を行き来できるような位置に部屋は無い。

家に着いても無言のままだったマツバに、明日は頑張ってね、と伝えて家に入ろうとしたら、また腕を掴まれた。



「何?」

「あの先輩にもう近付くなよ」

「いや…近付くもなにも、滅多に会わないし」

「あの先輩、お前の事好きみたいだ」

「まさか〜」

「……お前、本当に鈍いな」



ハァ、とマツバはため息をついた。
ため息をつきたいのは私の方だ、と言おうと思ったら、ふいに視界がマツバでいっぱいになった。
唇に触れる柔らかい感触に、体温が一気に上昇する。


後方でキャー!という悲鳴が聞こえた。
見られた!という羞恥にかられた瞬間、マツバはニヤリと笑った。


「僕をつけて来てたみたいだ」

「マツバ、離して」


弓を持っていない方の腕で、腰を引き寄せられる。
マツバとの距離がありえないくらい近くて、心臓が爆発しそうだ。
それに、恥ずかしい。



「見せつけてあげようか?」

「ちょ、マツ…!」


有無を言わず、再び口を塞がれる。
先程とは違い、とびきりディープなキスで、私の頭はパンク状態だった。
やっと解放してもらえた時には、上手く立てずに座り込んでしまった。



「明日の試合、勝てそうな気がする」

「……ああ、そう」



もう悲鳴は聞こえなかった。



20110325