ただ分かったことは、マツバとデンジさんは仲が悪いということくらいだ。同族嫌悪というやつだろうか、とマツバに聞いてみたら綺麗な笑顔が返ってきてぞっとした。
しまった失言だったか、と後悔したところで遅く、昨日は散々な目にあった。
「…眠いだるい」
「もうすぐジョウトに着くから頑張りなよ」
「……誰のせいだと」
ぼそっと念を込めて呟いてみたが、マツバはスルーしてナギサシティで買ったモンスターボールに貼るシールを一通り確認している。
ジョウトには無い珍しいものだったからお土産に買ってみたのだが、そのほとんどがジムに来たトレーナーに配るためのものだ。
こういう気配りが好感度の向上に繋がるのだ、とサラッと呟いたマツバに冷えた視線を送ったがスルーされてしまった。ちなみに、ジムトレーナーの人達にはお菓子のお土産を別に買ってきている。
お土産用とは別に、自分用に買ったシールを取り出して、ウインディの入ったボールにハートのシールをぺたりと貼ってみた。早くジョウトに帰ってボールからポケモンを出してみたい。
あと数枚ハートのシールが余ったので、試しにマツバにも勧めてみる。
「マツバもシール使わない?」
「僕はいいよ」
あんまり飾り立てるのは好きじゃないんだ、と言ってから確認していたお土産用のシールを紙袋にしまった。
もうそろそろ船がジョウトに着く、というアナウンスが船内に流れる。
なんだかんだでシンオウへの旅行もあっという間に終わってしまったな、と荷物をまとめながら思い出す。
第一の目的は結婚の報告だったので、旅行は二の次であったが、短い期間ながらも楽しめたように思う。
旅行を楽しんだ分疲労も溜っているので、今日は帰宅したらすぐに寝てしまいそうだ。
ふぁ、とあくびをしたらマツバがこちらを見て動きを止めた。
「…何?」
「…そんなに疲れてる?」
「…マツバが一番良く分かってるんじゃないの」
「まあ…そうだけど」
うーん、と唸ってからマツバがこちらに向き直る。
やや真面目そうな顔をしているものだから、少しだけ緊張する。が、この先の発言で肩を落とすのは目に見えている。
「体力つけなよ」
「……手加減してよ」
「してるよ」
「えっ」
「本当はもっとお前をいじめぬいて泣かせてやりたいんだけど」
悪気もなく無害そうな表情で恐ろしいことを言うマツバにぞっとすると同時に、若干期待してしまったのは昨夜のマツバのせいだ。じっくりねっとりしつこく激しくされた昨夜の内容を思い出すだけでも恥ずかしい。
日に日にマツバに自分を変えられていくような気がして、よけいに羞恥の感情がわき上がる。
しかし、赤くなっているだろう私の顔を見てか、マツバが呆れたように「ドMめ」と呟いたのは聞き逃さなかった。
「そっそんなんじゃない!」
「ほらジョウトに着いた、さっさと降りるぞ」
「違うってば」
「はいはい」
さっさと船を降りていくマツバを追いかけながら、先程の発言に反論できることがないか考えるがすぐには思い浮かばず、そうこうしているうちにアサギの船着き場で、旅行に来ているだろう二人組の女性に声をかけられた。勿論声をかけられたのは私では無くマツバである。写真を一緒に撮ってくれませんか?という二人組のお願いにマツバは笑顔で頷いてから、カメラを私に手渡してきた。
「写真撮ってよ」
「……はいはい」
畜生、と心の中で呟いてからシャッターを切る。
やはりマツバは何枚も上手である、いろいろと勝てる気がしない。
マツバと記念撮影をしてキャッキャと喜ぶ二人組にカメラを返し、荷物を持ち直す。
二人組を笑顔で見送るマツバを見て、この人と結婚するとこの先大変そうだな、と今更ながら思った。
20130902