ほぼ花畑しか無い町だし、まさか花の蜜などの関係の甘いものを求めているわけでは無いだろうし、では何故か?と私なりに考えていた。
もしかして、ソノオに何か思い入れがあるのか?と深く考えていたのだけれど、今目の前で甘い蜜のかかったくず餅を嬉しそうに食べているマツバに、ガッカリせずにはいられなかった。
「まさか無いとは思ってたんだけど…それが目当てだったわけ?」
「ああ、なかなかいけるよ」
お土産に買って帰るか、とにっこり笑ってくれるのはいいのだが、お店のバイトの子達がずっとこちらを見ているのでやめて欲しい。
「ここに来て良かったよ。お菓子は美味しいし、フワンテをゲットしたし」
そう言って、マツバの隣でふよふよ浮いているフワンテを、マツバが撫でてやった。
フワンテも嬉しそうにマツバに擦り寄るので、その主人とポケモンの仲睦まじい光景に悶えた。
「ふおおお…」
「奇声やめろ」
「はい」
落ち着け私、なに今さら自分の恋人に悶えているんだ。
どうにか思考を落ち着かせ、改めて隣を見ると、フワンテが今度はこちらに飛んできた。
そして、手なのか触覚なのかよくわからないが、それで頭を撫でられた。何でだ?
「ナマエに同情してるんじゃないの?」
「そんな馬鹿な…」
「それより、この後どうする?ホテルに行くには時間が少しあるけど」
「うーん…」
朝はクロガネシティを観光したし、さっきは発電所付近をぶらぶらしたし、ソノオタウンには花畑しかないし、マツバはこの町の名産品を食べて満足しているし、ここですることは特に無くなってしまった。
「何か他に見るもの無いかなー」
ぼんやりと辺りを見渡し、何かないかと探していると、視界の端でキレイなドレスを来た女性二人組が走っていった。
何かパーティーでもあるのだろうかと視線で追うと、後ろから甘味屋の店員に話しかけられた。
「ちょうど今、結婚式が行われているんですよ」
「えっ」
なんという偶然だろう。
婚約報告をするためにこの地にやって来たのだが、そこで本物の結婚式に遭遇するとは。
チラリとマツバを見れば、何、とめんどくさそうに答えた。
私が何を言いたいのか分かっているのだろう、私が口を開く前に「わかったよ」とため息をついた。
私達がその場に到着した時には、花嫁と花婿が嬉しそうに寄り添い、それを祝福する招待客の拍手で非常に盛り上がっているところだった。
教会も立派な建物も何もない、ただ花だけで満ちているこの場所で微笑む二人を見て、暖かい気持ちに包まれた。
「こういう結婚式もいいね」
「…そうだね」
結婚式を見に行くことをなんとなく嫌がっていたマツバだが、暫くはぼんやりとその様子を眺めていた。
もしかして、見惚れているのだろうか。
密かにそう思いながらマツバを見ていたら、「あのさ」とマツバが口を開いた。
「ウェディングドレス、着たい?」
「え?」
まさかそんなことを言われるとは思っていなかったので、思わずポカンとしてマツバをじっと見てしまった。
私があまりにも見ているからか、若干視線を反らしている。
まさか、あのマツバが、照れているだと。
「…絶対に、僕達の結婚式じゃあ、ドレスなんて着られないからね」
マツバの家のこともあるし、まあそうなるだろうと当然のように思っていたのだけれど。
もしかして、気にしてくれていたのだろうか。
「ううん、いいよ。前にホウエン地方に行った時に、ドレス着られたし」
「…そうか」
それに、そんなことを気にしてくれていただけで私には充分だ。
今、あそこで笑っている花婿さんと花嫁さんと同じくらい満たされていると、言える気がする。
ああ、やっぱりこの人が好きだなぁと、心から思える。
「どうしよう、今凄くマツバに抱き付きたい」
「……後にして」
20111212