友達コレクション
※ゲーム、トモダチコレクションをネタにしたお話です。※ヒロインが出て来ません。
※会話文多めです。
終日部活練習の土曜日。
昼休憩中にトイレから戻って来た岩泉は、部室の真ん中に集まっている及川や松川、花巻達に視線をとめた。
なにやら全員揃って真ん中にある何かを見ているらしく、岩泉も輪の中心にあるものを覗き込む。
「お、おかえり岩泉」
「何やってんだ…?」
輪の中心にある一台のゲーム機を視界に入れ、岩泉は心当たりが合って「あ」と言葉を漏らす。
ゲームを操作している花巻は、ニヤニヤと笑みを浮かべて、岩泉が今頭に思い浮かべたことを肯定した。
「苗字の持ってるゲームだよ。暇だったから借りた」
「ああ、やっぱそうか」
1週間程前だったか、一緒に出かけた時に通りかかったおもちゃ屋のゲームコーナーで、同じゲーム機をナマエが購入していたのを思い出す。
なんでも現実にいる人間の分身のようなキャラクターを作ってマンションに住まわせて、そいつらの日常を世話しながら人間関係の変化などを楽しむゲーム、らしい。
買ったその日に二人で一緒にキャラクターを作るところまではやったが、世話なんかはナマエがやっているから、大して詳しいことは知らない。
「苗字は?」
「タオルとか洗いに行ってる」
バレー部マネージャーである苗字も大体昼休憩の時にここにいることが多いのだが、姿が見えないのはそのせいか。
納得した岩泉も3人の輪の中に入り、花巻の操作するゲーム画面に目を落とした。
どうやらゲームを起動したのはつい先程のことのようで、とりあえずマンションに住む住民達を一通り眺めているらしかった。
「及川すげぇ似てる」
「ええ…そうかな?」
洒落た部屋に住んでいる及川の分身は、画面の中で犬と戯れていた。
それを見た花巻は及川の部屋をタッチし、部屋の中に入っていく。
「及川にだっせぇ服着せてやろ」
「ちょっとやめてよ!」
ゲーム慣れしているために、花巻の操作に迷いは無い。
服のマークをタッチし、及川に与えられた服の一覧を眺める。
「うわぁ…及川の服のレパートリー、ネタっぽいやつしかねーぞ」
「嫌われてんなお前」
「いや…わりと地味に傷つくんだけど…」
きぐるみやら何やら派手なで奇抜な衣装やら、変な服しか持っていない及川の分身は機嫌良さげにニコニコとしている。
現実の及川の表情は若干引きつっていたが、他3人は総スルーして湯上がりバスタオルを及川に着せて満足した。
次に隣の部屋に住む岩泉の部屋へと移動し、花巻は先程と同様に部屋をタッチする。
「なんか岩泉だけ超レベル高いんだけど…」
「持ち主が苗字だからね、しょうがないね」
「これレベルで苗字からの好感度が分かるからこえーな」
岩泉の分身が持つ服のレパートリーを眺めてみても、わりと普通の服ばかりである。
あんま面白くねーな、と持ち服の一覧を眺めていた花巻だったが、ふとある名前に目を止めて爆笑した。
「ギャハハハ!いっ岩泉お前、タキシード持ってんぞ!」
「ブフッ」
「苗字の願望だな…」
「……」
笑いながら岩泉の分身にタキシードを着せた花巻は、未だにげらげらと笑っている。
似合わねー!と言っている及川を殴りたくなったが、岩泉もタキシードを着た分身を見て全く同意見ではあった。
無言の岩泉を散々にからかって満足した他3人は、また隣の部屋に移動する。
訪れたのは松川の部屋のはずだったのだが、そこに松川の分身の姿は見られない。
「あれ、松川いなくね?」
「ああ、そういや松川は最近結婚して別宅のマイホームにいるぞ」
「何ィ!?」
何だか前にチラッと見せてもらった気がする、と記憶を辿って発言すると、花巻は早速別宅のある場所まで移動する。
窓の明かりのついた一軒家をタッチし中に入ると、庭で遊んでいる子供を笑顔で見守る松川の分身とその妻の姿があった。
「子供も産まれて幸せな家庭築いてるって、あいつ言ってたけど」
「本当だ…」
「奥さん誰?」
及川と花巻が岩泉の方に顔を向けるので、岩泉もなんとかナマエの言っていた事を思い出す。
「確か…1組の女子じゃなかったっけな…」
「ああ、わかった!この子今まっつんといい感じの子でしょ!?」
どうやら及川には心当たりがあるらしい。
そう指摘された松川は「どうかな…」などと曖昧に答えたが、この様子だと及川の発言は図星らしい。
「マジかよ松川…現実よりも先に仮想世界で子作りまで済ませるとは…」
「嫌味かそれ」
花巻の発言は、完璧に幸せな生活を送っている松川の分身への妬みである。
岩泉も呆れたような目で花巻を見るが、花巻はただからかいたかっただけのようで、その後松川の娘をタッチペンであやしていた。
そして次に花巻の部屋に入ったのはいいが、自身の分身を見て花巻はぴたりと固まった。
「なぁ、おれの名前タカダイになってんだけど」
「マジで?笑えるな」
「いや笑えねぇよ。嘘だろ3年間も同じ部活にいてなんで覚えてねぇんだよ」
呆然とする花巻を放置し、及川が指先で花巻の分身に食べ物を与える。
しかし、分身の好みではなかったらしくあまり良い顔をされなかった。
「げっ」と声を漏らした及川に、花巻は「やめろ」とゲーム画面を及川から遠ざけた。
「元気出しなよ。ニックネームがマッキーだからいいじゃん」
「よくねぇよ」
その後も、4人でマンションに住む住民を一通りに眺めて行く。
「なんか金田一もレベル高ぇな…」
「矢巾の彼女だれ…?」
「及川の妹」
「いや誰だよ、俺妹なんていないんだけど」
「お前の仮想の妹だよ」
「及川弟もいるぞ、国見の親友」
「何で俺だけ仮想の家族増えてるの?」
異常に多い及川ファミリー(仮想)達を眺めつつ、残り少なくなった住人達を眺める作業は続く。
「なぁこれ、烏野の10番じゃね?」
「本当だ…しかもこれトビオじゃん。何他校の生徒のキャラクター勝手に作ってんの?」
「げ…牛若までいる」
バレー部に関係する人間で印象に残っている人物のキャラクターを手当り次第に作っているらしかった。
おかげで男女比の偏りが多く、この問題を解決するために4人で適当に女の子の住民を二人程増やした。
もう一人くらい女の子増やす?と松川が口にした時、花巻が3人に静止をかけた。
「おい…ちょっと待て。これ見ろ」
「何だ?」
「あ…この子って確か…」
「よく部活見に来てる女の子だよね…多分」
「そうそう、しかも多分、国見の事好きな子だよ」
「この子の部屋から…ハートマーク出てる」
4人全員で息をのみ、ハートマークの出ている女の子の部屋に入る。
女の子の分身からは、ふわふわとした吹き出しが浮かんでおり、花巻はそれを恐る恐るタッチする。
するとその女の子は、実は国見(の分身)に告白するつもりであると口にした。
そして、どのように告白をしたらいいか相談をしてくるものだから、4人で顔を見合わせる。
「おい、どうすんだ。どんな感じで告白させてやればいいんだ?」
「相手は国見だからな…どんな告白のされ方が好きなんだろ」
「もう王道な感じでいいんじゃない?悩んでてもぶっちゃけ分からないでしょ」
「まぁ…そうなんだけどさぁ…」
うーん、と暫く4人で悩むも、これといった答えは出ない。
話し合って、恐らくこれなら大丈夫だろうと思うアドバイスを女の子に与える。
そして迎えた告白。
国見を海岸に呼び出し、女の子は4人がしたアドバイスの通りに好意を伝える。
国見の分身も現実の国見同様、何を考えているのかいまいち分からない表情をしている。
ドクンドクンという鼓動の音がゲーム機から聞こえ、4人は答えを口にしない国見の分身と女の子を見守る。
ごくり、と息を飲み、静寂が破られるのを待つ事数秒。
国見の分身は、女の子の告白にイエスと答え頷いた。
「いよっし!」
「やったな!」
「よっしゃぁ!」
「うし!」
4人同時にガッツポーズをし、ハイタッチをかます。
ウェーイ!と手を叩き合っていると、タイミングの悪い事に国見が部室に入って来た。
妙にテンションの高い先輩達を不思議そうな目で見ると、4人も国見の存在に気づいて寄って来た。
「おめでとう国見ちゃん」
「良かったな」
「大事にしろよ」
「お幸せに」
「は?」と首を傾げた国見の方をバシバシと叩き、4人は鼻歌を歌いながら再びゲームをしに戻って行く。
意味が分からず立ち尽くしている国見は、この日、3年生に妙な絡まれ方をされまくり精神的に体力を異常に消耗することになった。
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