18.触れる
「ちょっと……、エイミー起きなよ」
「エイミーってば」
「そんなとこで寝てたら風邪ひくよ」
「悪い鬼さんに食べられちゃうよ」
「エイミー、」
「……参ったなあ」
リビングのソファで眠るエイミーに何度声をかけても、起きる様子はなかった。敵に襲われたらどうするんだ、と一瞬思ったが、エイミーはただの社会人であって、そのようなことは滅多な事がない限り起こり得なかった。
イルミが困っているのは、女性が眠っているときの適切な起こし方を知らないからではなく、なんだかんだとエイミーの家に入り浸っている割に、今まで一度もエイミーに触れたことがなかったため、どのようにしてエイミーを起こせばいいか分からなかったからだ。
エイミーに触れるのは、なんとなしに、躊躇われていた。
別に、エイミーに触れたからといって、何かが変わるとは思えなかったが、それでもイルミの中の何かがブレーキをかけていた。エイミーはそういうのじゃない、と思おうとしていた。
「起きてよ」
イルミがお願いするたいていのわがままはいつも聞いてくれるエイミーだったが、すやすやと眠るこのエイミーはイルミの声が聞こえていないようだった。
「……あほ面」
口を半開きにして、なんとも幸せそうに眠る、まるで子供のような寝顔をするエイミーには、これはこれで一種の可愛らしさがあるかもしれない、とイルミは思った。
つん、とエイミーの頬を突ついてみると、エイミーは鬱陶しそうに顔を背けた。
「なに、ちょっと可愛くないんだけど」
起きる気配は相変わらずない。
「……おやすみ」
やっぱり起こすのは可哀想だ、と思い直しイルミはそっと部屋の電気を消した。
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