ツムには分からんでええねん




「名前ちゃーん」
「なにか用?」
「用がなきゃ話しかけたらあかんの?」

 それともサムの許可でもいる? 訊ねられているはずなのに、まるで拷問でもされているような気分だった。用がないのに話しかけてきて、その後どうするつもりなんだろう。
宮侑くんは、よく分からない。

「治くんなら委員会で部活遅れるって」
「アイツのこと、よう知っとんな」

 双子の片割れさんに言われると、なんだかものすごい嫌味に聞こえるな。わたしと侑くんが話すことなんて治くんのこと以外には思いつかなかっただけのこと。そして、今わたしが彼よりも治くんについて知っている情報はこれくらいしかなかった。

 双子って兄弟にはない特別なテレパシーみたいなものがあるのかな。シンクロというか共感というか。治くんには侑くんの、侑くんには治くんの。感情なんかが伝染したりもするのだろうか。

「取らないから安心してよ」

 ギョッとした侑くんがこちらを見下ろしたまま固まって、言葉の意味を噛み砕くのに少し時間を有したらしい。

なんか、だいすきなぬいぐるみを取られちゃわないか心配している子供のようだと思ったから。

「何寝ぼけたこと言うてんねん」
「なんでそんな突っかかってくるの」
「突っかかってないやろ。そっちこそなんやねんいつの間に」

いつの間に、何? その答えは聞けずじまいだったけれど、侑くんはどうやらわたしのことがお気に召さないらしい。ちょうどいい、わたしも治くんのことはすきだけど、侑くんのことは苦手だ。





「サム! なんやねんあの愛想のない女は!」
「俺にはそんなんちゃうし。かわええやろ名字さん」
「キッショ! かわええとか言うな!」

「ツムには分からんでええねん」






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