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愛が東の手首を縛り、赤司を見ると……彼は携帯で誰かと電話しているらしかった。赤司の意図が分からない愛は、黙って待つことしか出来ない。暫くすると、ようやく話し終えて携帯を閉じ……不気味に光る瞳で愛の方を見た。

「あぁ、すまないね。今警察に連絡したから、君たちはもういい」
「……へ?」

"もういい"。……赤司の言葉の意味がいまいち理解出来ない。

「……あの、それって…」
「詳しく言わないと分からないか?そのままの意味だ。帰っていいと言っている」

警察には、僕の方から説明するからーーーそう言って、縛られた東を立たせ、扉から出て行こうとする。

「っ……!ちょっと待ってください!」

少し駆け寄り呼び止めると、赤司は迷惑そうに愛を振り返った。

「……なんだ?」

その自分勝手で素っ気ない態度に、愛は少しばかり苛立ちを感じた。

「なにって……一体どういうことなんですか?状況くらい、説明して行ったらどうです」
「……君は刑事だろ?まだ分からないのか、少しくらい頭を使って考えたらどうだ」
「っ……!」

刑事としてのプライドをズタズタに切り裂く言葉を、躊躇なく口にした赤司。愛は絶句し、血管がブチ切れそうになるのを必死に堪える。

「俺も知りたいな」
「……日向さん」

黙った愛と入れ替わるように、次に口を開いたのは日向だった。

「ここまで巻き込まれたんだ。俺にも知る権利ってのがあるだろ?」

口角を上げ、不敵に笑って見せる日向。それに対して、赤司は……表情こそ何一つ変えなかったものの、考えを改めたようで掴んでいた東の襟を放した。

「……なら教えてやろう」

赤司は後ろ手で扉を閉めると、優雅な足取りで部屋の角に移動して壁に寄りかかった。

「君は、ここ最近起きている連続放火事件を知っているだろう?……その犯人が、そこの東真吾だ」
「……えっ」
「東は今から一年前、妻を放火によって亡くしている。その際に事件に関わったのが、僕と君の上司である青峰大輝だ」

そこで赤司は、一年前の事件について語ったーーー。

ーーー
ーー


「……ってことは、麗さんが殺されると知っていた上で、敢えて貴方は東さんに真実を伝えなかったということですか……!?」

赤司が話し終えると、愛は信じられないといった気持ちで噛み付いた。

「あぁ、そうだ」
「貴方は、殺害を見て見ぬ振りをしたんでしょう?貴方が殺したも同然です!」
「……心外だな。清水麗の件については、依頼された離婚訴訟について調査を進めるにつれて発覚したことだ。教えてやっても構わなかったが、僕が依頼されたこととは明らかに別件。干渉する必要は皆無だと判断したまでだ」
「でも、だからってーーー」
「……君、少し黙っていてくれないか。話が進まない」

愛の言葉を遮り、さぞかし迷惑そうに赤司が言った。

「まぁ、結論から言うと……今回の連続放火事件は、僕と大輝に対する復讐だ」

横暴な振る舞いに、愛がとうとう怒りをぶつけようと口を開いた……が、そこからは「……へぇっ?」と間抜けな声が洩れただけだった。"復讐"、という二文字が愛の心を揺さぶった。

「僕は大輝からこの事件を聞かされた時、真っ先に東のことを思い出した。警察も必死に捜査や、過去の事件と関連性がないか調べていたらしいが……これは、僕と大輝にしか分からない事件だ。
一年前の事件を解決した際、僕の存在は伏せるよう大輝に指示をした。故に、警察の手元にある記録上、大輝ただ一人の手柄となっているはずだ。だから、警察は一つの重要な"カギ"を知らなかったんだ。
僕が最後に、東に渡したーーー"名刺"のことを」

ーーー警察の記録にない事実。
正しい情報を持ち合わせていなければ、分かるものも分からない。"名刺"という重要なキーワードを知らなかった警察の、今までの苦労は水の泡……となった瞬間だった。

「放火、猫の死体、赤い名刺」

3つの単語を、意味ありげに口にする。

「放火は清水さんの事例を真似たもの、

猫の死体は、本来清水さんの身代わりとなるべきだったもの、

……え?これは僕の憶測でしかない可能性もある?根拠はあるさ。僕は軽率な言葉を口にしないからね。僕には……そうだな、"協力者"とでも言っておこう。仕事の手伝いをしてくれる人がいるんだ。そいつにAの自宅の様子を見に行かせたら……自分の部屋で、猫の死体と共に首を釣っていたよ。

想像したくもないな。

それで、猫の死体との関連性もあるわけだ。さて……問題は赤い名刺のことなんだが、もうそろそろ気付いただろう?
大輝から一枚拝借した、今回の事件現場に残されていた名刺を調べてみたんだ。紛れもなく、僕が最後に撒き散らした名刺のことだ。しかし、何故赤色に染める必要があったのか?
わざわざ赤色にしなくても、目的は僕への復讐なのだから、僕の名刺をそのまま使えばいいはずだ。

染め上げる必要があったんだ。

東真吾、お前のその両手は何故手袋で隠している?寒がりだから、なんていう言い訳は通用しない。お前が過度のヘビースモーカーであるにも関わらず、そこまでするには何か特別な理由があるはずだ。煙草を吸うには、そのぶ厚い手袋をしたままライターを付けられない。お前が使用する百円ライターは、ボタンを押し続けないと火がつかないから尚更だ。
その異常なくらい厚着しているのは、おそらく手袋の存在をうまく隠す為だ。手袋だけしていては、かえって目立ってしまうからな。
その両手についている血は、猫を殺した時のものだろう?
お前はその血を、そこにいる長澤愛に見られた。
そこでお前は考えた。僕と大輝に復讐する前に、自分が犯人だと気付かれるかもしれないと。だからお前は長澤愛をここに連れて来た。そうすれば、たとえ気付かれたとしても此処で殺せばいい。さらに大輝を呼び出すことにも使える……一石二鳥というわけだ。
それで、名刺との関わりだが……運が悪かったらしい。猫の血が名刺に付いたんだ。僕がお前に渡した名刺の数には限りがある。しかし、血というものは一度付いてしまったらなかなか取れないものだ。そこで、血の上からインクを塗った。インクは紙に付けると、血と同じくなかなか取れない。これなら、短い間なら誤魔化せるだろうと。
だが、僕は一目見た瞬間分かったよ。二重に何かを塗った形跡があったからな。警察は、そこまで気にしていなかったようだが。警察も落ちぶれたものだな……そんなことにも気付かないなんて。せめて大輝を捜査に加えていたら、解決は早かっただろうに。



こうやって、赤い名刺が出来上がることになったわけだ。……長くなってしまったね。疲れただろう?」





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